News 2003年9月30日 11:19 PM 更新

24時間「ナップスター狂騒曲」

ダンスミュージックにE、RX-7でドラッグレース、野心あふれる怪人物──Napsterの盛衰。

 倉庫に響く電子音のビート。Eを食って踊る数千人の若者たち──これはニュー・オーダーやハッピー・マンデーズを輩出して空前の“マッドチェスター”ブームを演出した英Factory Recordsを描いた映画「24アワー・パーティ・ピープル」の1シーン、ではなくて、良くも悪くもネットが秘めた力をオールドタイプに知らしめたNapsterのクロニクル「ナップスター狂騒曲」(ジョセフ・メン著、ソフトバンク・パブリッシング刊、原題:ALL THE RAVE)の冒頭だ。


 すぐに切れるMP3ファイルへのリンクに業を煮やした17歳のショーン・ファニングが考案したP2Pファイル共有システム「Napster」。ネットとともに地球を駆けめぐり4000万人のユーザーを集めるも、著作権侵害に業を煮やした全米レコード協会らから訴訟攻撃を受けサービスは事実上停止。最終的にその資産は米Roxioが買い取った──といった経緯はZDNet読者なら詳しいはずだ。

 Los Angels Timesでシリコンバレーを担当している著者は、そんな表面的な歴史の裏を存分に暴いていく。ショーン・ファニングを始めとする関係者に対し膨大な聞き取り調査を行った上、関係者間で交わされた電子メールメールや訴訟記録などからNapsterの盛衰を丹念にたどっている。

 同書で特に注目されるのは、“Napsterという問題”のフィクサーとも言えるジョン・ファニングに光を当てた点だ。彼はショーンのおじに当たり、Factoryにおけるトニー・ウィルソン、というよりはセックス・ピストルズにおけるマルコム・マクラレンと言うべき怪人物。レイバークラス出身で著名ビジネス誌の表紙への登場を夢見る野心的な男だ。彼はNapsterの行方を左右する重大な局面ごとにおかしな行動をとり、Napsterを危険な方向に導いていく。

 飛び交う罵詈雑言。破壊的な可能性にわらわらと群がるオトナどもの泥仕合。それでもショーンら若き天才たちには「Just For Fun」(リーナス・トーバルズ)の精神が息づいていたようだ。ドクター・ドレーを大音量で鳴らしつつ、サーバの名前は「レディオヘッド」に「ニルヴァーナ」「パール・ジャム」。週末にはNull Softの連中とRX-7でレースだ。「だって楽しいから」。「音楽が好きだから」。さわやかなくらい単純で純粋な動機の“Kid A”たち。でもそれだけじゃ割り切れなくなってしまったころ、Napsterも終わりを迎えたのだった。

 Napsterのベータ版をハッカーグループに公開したころ、ショーンは仲間からこんな質問を受けている──「これがすべてを一変させるだろうってこと、理解しているかい?」。ところで「24アワー・パーティ・ピープル」の日本語版惹句は、「世界を変える音を聴け」だった。

 ドットコムバブルとシンクロしてネットを疾走したNapsterの熱気と失望の四つ打ちがビビッドに響く労作。訳者は合原弘子+ガリレオ翻訳チーム。四六判、520ページ。1900円。

インディーズ限定ネット音楽祭も開催中

 著作権侵害ばかりがクローズアップされたNapsterだったが、純粋に音楽好きなユーザーが集まる良質なコミュニティとしての側面もあったことはあまり強調されていない。こうしたユーザーはインディ連中が作品の場としてNapsterを使うことを歓迎していた。


 ソフトバンク・パブリッシングは同書の刊行に合わせ「音猫祭」を開催中。著名インディーズレーベルと協力し、インディバンドの楽曲データを無料でダウンロードして聴くことができるネット音楽祭だ。同書を購入すると先着順にオリジナルグッズがもらえる店舗限定キャンペーンも実施中。

関連リンク
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[ITmedia]

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