News 2003年10月20日 08:39 PM 更新

ARMも並列化へ 高速&省電力両立の“解”

世界7割超のシェアで組み込みRISCのトップを走るARMが、ライバルとも言えるNECと手を組んだ。キーワードは「マルチプロセッシングで省電力」だ。

 ARMとNECエレクトロニクス(NECエレ)は、ARM11ファミリーのライセンス提携と、対称型マルチプロセッサの事業分野で戦略的パートナーシップを提携したことを20日に発表した。これまでも、両社の間でARMに関するライセンス提携が何度か行われてきたが、今回は「長期的な協力関係を構築するのが、これまでと大きく異なる」(NECエレクトロニクス 取締役副社長 橋本浩一氏)


製品発表会に登場したNECエレクトロニクス取締役副社長の橋本浩一氏と英ARM Chief Operating Officerのテュダー・ブラウン氏

 今回の提携でNECエレとARMの間で取り交わされたのは、ARMファミリーの最新バージョン「ARM11ファミリー」すべてのコアに対するライセンスの供与と、「組み込みタイプで初めてのマルチプロセッシング対応コアと、開発するコアで動作するマルチプロセッシング対応OSの開発」に「長期的協力関係」で取り組むこと。

 NECエレは同じ組み込み型プロセッサの市場で、ARMと競合するV850や78Kといった自社開発の「K1ファミリ」を投入している。そのNECエレがARMと手を組む理由は「組み込みプロセッサの市場は高性能、小型化、複合化に向かっていく」(橋本氏)と予測しているため。

 「V850シリーズは、エンジンやABSといったリアルタイム応答性が求められる組込み制御の分野でがんばっていく。ARM11ファミリーは高い演算性能が求められるデータプロセッシングの分野を中心に展開する」(橋本氏)

 ハードウェアの制御が主な対象になる組み込み制御と異なり、データプロセッシング分野ではカーナビやPDA、そして将来的には3G携帯用アプリなどがターゲットになってくるが、このような機器では、グラフィカルなユーザーインタフェースや多様なプレイヤー機能が求められるようになる。

 NECエレは、このような高付加価値やマルチメディア機能を実装したデバイス市場が、2006年に3兆円規模まで成長すると予想している。しかし、V850シリーズは、これらの機器で必要になるマルチメディア処理能力が不足しているのに加え、開発効率で重要になる「ソフトウェアの蓄積」が少ない、などの問題を抱えている。

 NECエレはこの弱点を、世界で70%以上のシェアを誇り対応ソフトが豊富なARMファミリーを多機能高性能デバイスで利用することで、解決できることを期待している。


NECのV850はグラフ右下の機器組み込み型デバイスを主なターゲットにしている。ARM11ファミリーはグラフ左上に位置する、V850がカバーできなかった多機能デバイスに組み込まれていく


組み込み型プロセッサの市場はグラフの右上に位置する「高機能」「小型化」「複合力」にシフトしていくとNECエレは予測している。このようなデバイスでは、多種多様なソフトと高いマルチメディア処理能力が求められるが、どちらもV850にとって苦手な分野。ここをカバーするためにARM11ファミリーが必要になるわけだ

 対するARMがNECエレに期待するのが、長年にわたってサーバシステムで蓄積してきた「マルチプロセッシング技術」と「低消費電力駆動LSIの開発技術」だ。

 ARMのような多機能高性能プロセッサでは、処理能力の向上とともに消費電力も増加していく。携帯機器に組み込むプロセッサとしてこの問題は致命的。この解決方法としてARMとNECエレが考えているのが「プロセッサの並列化」だ。

 PCやサーバ向けCPUでは当たり前のマルチプロセッシング技術だが、組み込み型CPUでは並列処理に対応した製品は現在のところ見当たらない。PCやサーバのように、マルチプロセッシングを必要とする高いパフォーマンスが求められないことがその理由であるが、ARMとNECエレが考えるマルチプロセッシングの利用方法はパフォーマンスでなく、「各プロセッサのクロックは低く抑えて、システムの消費電力を低減する」。

 ARMの説明によると、開発されるCPUの消費電力は2000MIPSの処理能力を持つプロセッサで、既存ARM11の4分の1から5分の1を目指すとしている。マルチプロセッシングの構成は3〜4並列を想定されているので、システム全体でも消費電力は低くなる見込みだ。

 また、新規に開発するのではなくARM11をベースに開発する理由は、シングルプロセッサARM用に作られた膨大な数のソフトを組み合わせることで、多機能ソフトの開発効率を向上させ、評価工程のコストを削減できるため。


将来登場するデバイスでは、複数の機能を同時に実現する多機能ソフトが必須となる。すべてを初めから開発するとその労力は膨大なものになるが、すでに実績のあるシングルプロセッサ用ソフトを、マルチプロセッサシステムで組み合わせることで開発コストは削減できる、というのがNECエレとARMの考えだ

 マルチプロセッシング対応OSは新規に開発されるが、OpenOSラインアップのプロセッサでは、LinuxやWindows CE.NETをベースに開発する予定になっている。

 プロセッサの開発は2005年の出荷(ライセンスは2004年の第4四半期に適用開始)する予定で進められる。共同開発であるが、製品のライセンスやデザインオーナーシップはARMが所有。また、製品の供給もプロセッサコアはARMから、マルチプロセッシング対応OSはARMとARMパートナーからそれぞれ行われる。NECエレは「対応ソフトを供給することで利益を得る」(橋本氏)としている。

 なお、開発された製品がARM11ファミリーの派生モデルとなるのか、新しいグループネームを付けられるのかについては「現在のところ未定」(アーム広報)ということだ。


ARMが示したARMファミリーとこれから開発されるマルチプロセッサ対応コアのロードマップ。これによると、マルチプロセッサ対応コアは90ナノメートルプロセスを採用して2005年前半に出荷される予定だ

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[長浜和也, ITmedia]

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