News 2003年10月21日 06:07 PM 更新

2速ギアのCrusoeから4速ギアのEfficeonでオーバーヘッド問題を解決する

Transmetaが示しているデータに限って言えば、Efficeonのパフォーマンスは同クロックのPentium Mに匹敵するまでに改善されている。Crusoeで問題だったCMSのオーバーヘッド解消の秘密についてTransmetaのスタッフが語ってくれた。

 米国と日本で同日に発表されたTransmetaの新世代CPU「Efficeon」。Microprocessor Forumで行われた米国の発表会では、同社創立者のデビッド・ディッツエル氏自ら詳細な技術情報の解説を行い、世界中の注目を集めたのは記憶に新しい。

 日本で行われた発表会にディッツエル氏本人はさすがに登場しなかったが(それでも、ビデオ映像で長い長い日本語の挨拶をこなし、Efficeonの性能を紹介するなどプレゼンテーションはきっちり務めてくれた)、その代わりにはるばる来日して、日本法人代表取締役社長の村山隆志氏を助け、LongRun2のデモをこなしてくれたのが、Transmetaのシステムマーケティングディレクターであるジョン・ハイライン氏。

 Velfarreで行われた発表会が終了してから、迷路のような廊下の奥にある個室に案内されて、ハイライン氏と村山氏に個別インタビューを行った。その一問一答の内容を紹介しよう。


発表会で挨拶をするTransmeta システムマーケティングディレクターのジョン・ハイライン氏(左)と日本法人トランスメタ代表取締役社長の村山隆志氏(右)

──新世代CPUがCrusoeの発展系ではなく、最初からコアを開発して、Efficeonというまったく新しいシリーズとして登場したのは?

ハイライン氏 パイプラインの追加などの小規模な改良を行い、新世代CPUをCrusoeのコアを応用して開発することも技術的に興味深く、かつ可能でもあった。しかし、Efficeonは機能を追加しただけでなく、その構造が革命的に異なるので、新しいネーミングを与え、まったく別なアーキテクチャとして開発したのだ。

──日本のマスコミからよく聞かれるかもしれないが、開発コードネーム「Astro」のほうが日本では広く受け入れられると思うのだが、あえて発音しにくい「イフィシオン」(記者は東北出身なのでとくにそう思うのかもしれないが……)というネーミングにしたのは?

ハイライン氏 はっはっは。確かに「アトム」が日本で人気があるのは知っている。イフィシオンという言葉には、今度のCPUの特徴である「効率化」の「新しい時代」という意味がこめられている。

村山氏 日本ではAstroというネーミングを検討したこともあったが、さすがによく使われる言葉なのでライセンスの問題などで採用できなかった。

──Crusoeが登場してからしばらくたつと、日本のノートPCユーザーには「クロックと比べてパフォーマンスが出ない」という評価が定着してしまった。この主な原因がCMSによるオーバーヘッドと言われているが。

ハイライン氏 Efficeonはハードウェアそのもののパフォーマンスも向上している。また、CMSについても「4段階ギア」方式の採用でオーバーヘッドの発生を減少させている。CrusoeのCMSはLowとHighの2段階のギアしかなかったので、LowギアからHighギアに命令コードを移行させる段階で変換時間がかかってしまった。これがオーバーヘッドとなり、パフォーマンスの低下につながってしまっている。しかし、4段階にギアを細分化したおかげで、EfficeonのCMSはそれぞれのギアに移行する変換時間が少なくなっている。

──4段階トータルで見ると必要になるギア変換の時間は変わらないのでは?

ハイライン氏 Efficeonで使われるCMSの特徴は、ギアがアップするにしたがって重要なコードだけが最適化されて上のギアに移行できるところだ。ギアがチェンジしてコードの最適化が進むと重要なコードだけが残るようになり、CPUが実際に処理する命令も削減される。その結果、変換時間も処理時間も減少しパフォーマンスがアップすることになる。

──Crusoeでは32ビットの命令を4セットまとめて処理していたが、Efficeonでは8セットまで並列で処理できるように拡張され、それがハードウェアのパフォーマンスを向上させる大きな要因となっている。しかし、8セットまとめて処理することで、投機的なリスクは増大しないのか。

ハイライン氏 そのようなことは心配しなくても大丈夫。CMSによる命令最適化の段階で、実行しようとしているコードを前もって把握できるので、投機的なリスクは十分避けることができる。

──EfficeonはCrusoeよりも幅広い市場がターゲットとなっているが、日本で人気のあるキューブ型PCへ採用される話は具体的に動いているのか。

ハイライン氏 コンシューマーデスクトップPC市場では、多くのユーザーが静音やコンパクトサイズよりもパフォーマンスを重視する(注:これは、米国市場の状況に限った発言と思われる)。だから、Efficeonはそのようなパフォーマンス重視PCの市場はターゲットにしていない。

村山氏 日本では静音性やコンパクトサイズといったスペックが重要になっている。Efficeonはそのような市場に最も適したCPUだ。現段階で詳しくは述べられないが、そのような製品の開発が実際に進行している話もある。我々はPCメーカーではないので、発売時期は言及できないが、今年の年末に登場する可能性もあるだろう。

──NVIDIAとの提携を発表されているが、将来的にノースブリッジに関する技術協力の可能性もあるのか。

ハイライン氏 今回発表した提携は、あくまでもサウスブリッジに限った協力関係だ。

──Efficeonでグラフィック機能を統合する可能性は?

ハイライン氏 現在のところその予定はない。今はEfficeonの立ち上げが最も重要であるので、まずはそこに全力を投入する。Crusoeでグラフィックを統合しようとしたTM6000が開発を中止したの理由は、技術的な問題ではなく開発リソース的な問題のためだ。現在のEfficeonにグラフィック機能を内蔵するのは理論的に不可能ではない。ただ、今はユーザーにGPUを選択させるのが賢明だろう。

──90ナノメートルプロセスのファブにTMSCではなく、富士通を選択したのは?

ハイライン氏 現時点で90ナノメートルの生産体制を整えている唯一のメーカーと理由で富士通を選択した。今は富士通だけだが、将来90ナノメートルプロセスに対応し、より技術力と品質管理に優れたファブが出現したら、そこも選択範囲に入る可能性は当然ある。また、TMSCとは依然として強力なパートナーシップを結んでいる。

──CPUにメモリインタフェースやAGPを組み込むと、新しい規格に対応しにくくなるのでは?

ハイライン氏 EfficeonではすでにDDR 400までサポートしている。今回の設計にあたってTransmetaは2004年いっぱいは現在の規格で市場の要求に十分対応できると考えている。PCI-Expressはサウスブリッジで対応可能であるし、DDR-2やグラフィック用PCI-Expressの立ち上がりは2005年になるだろう。

──Crusoeでサポートしているセキュリティ機能の実装はEfficeonでも行われるのか。

ハイライン氏 まだ具体的なものは提供できないが、Transmetaとしてもセキュリティ機能は重視している。現在はCMSでセキュアな機能を提供している。しかし、インフラとして提供することも考えているところだ。クライアントが希望するなら対応は可能だろう。

──インテルがムーアの法則の崩壊を予想して「ソフトウェアによるCPU性能のアクセラレーション」に本気で取り組もうとしているが。

ハイライン氏 彼らの技術はまだ何も形になっていないのに対して、Transmetaはすでに製品の中に現実のものとして組み込まれている。そこがインテルとTransmetaの最も大きな違いだ。

──発表会の段階で構成トランジスタの数や価格を提示できないということは、まだ変更が発生する可能性があり、現時点における完成度は低いということなのか。

ハイライン氏 そんなことはない。Efficeonは完成している状態だ。ただ、Efficeonを搭載した製品を実際に出荷するのはTransmetaではなくメーカーだ。我々から価格に関する情報を出すことは、メーカーに対して多大な迷惑となってしまう。だから現時点では情報を提供することはできない。

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[長浜和也, ITmedia]

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