News 2003年10月29日 01:20 AM 更新

産学官との連携をアピールした「Intel R&D Day」

インテルが行っている最先端の研究開発をレクチャーしてもらえるこのイベント。しかし、インテルは「最先端技術」よりも「ビジネスパートナー」の説明により熱意をかけていたようだ。

 10月28日にインテルが東京で開催した「Intel R&D Day」は、タイトルの示すとおりインテルの研究開発の現状を説明するセミナーイベントだ。

 とくに今年は、秋のIDF JAPANが行われないこともあって、パトリック・ゲルシンガー氏(上席副社長 兼 最高技術責任者)や、ケビン・カーン氏(インテルフェロー兼コミュニケーション・テクノロジ・ラボディレクタ)といった、Intelの看板技術者の発言が聞ける唯一の機会として注目されていた。

 しかし、今回のIntel R&D Dayは「インテルと外部研究機関との連携をアピール」(インテル広報)が主な目的。招待された産学官の研究者を前に、研究開発の最新状況に加えて、インテルのR&D組織や仕様標準化への取り組み、そしてインテル キャピタルが行っている最新技術開発に対する投資支援活動の紹介に力を入れた内容となっていた。

 最初に登場したゲルシンガー氏によるキーノートスピーチでは、インテルの技術研究開発組織が紹介された。

 R&Dの中心となっているインテルのコーポレート・テクノロジ本部(CTG)では、ムーアの法則の延長と拡大といった「適切な課題への取り組み」(Problem)、専属の研究者やインターンを増加し「スター的な最高の人材を確保」(People)、「成功をもたらす計画を立案し、パートナーを構築する」(Process)といった「3つの“P”」などのコンセプトを設定して、「インテルの技術におけるリーダーシップ」という使命を実現するために活動を行っている。

 ゲルシンガー氏のスピーチでとくに重視されていたのが、大学研究機関との連携関係。2000年から2001年の「ITバブルの崩壊」で、業界全体が大学研究機関に対する助成金を減額した時期でも、インテルは横ばいを維持してきた実績をアピール。あわせて、将来は「米国中心だった助成金の交付を、米国以外の国にシフトする。そのかわり米国に対する金額は減少するだろう」(ゲルシンガー氏)と発言した。

 続いてゲルシンガー氏は、現在インテルで進められているリサーチプロジェクトを紹介。ユビキタスコンピューティングの実現を目指す「プロアクティブコンピューティング」では、「これまで、命令を待っていたインタラクティブなPCから、ユーザーと相互に作用することで、行うべきことを予測して実行するPC」を目指すと述べている。

 このほかにも「プレシジョン・バイオロジ」(単体分子レベルの次世代バイオ機器開発)、「センサ・ネットワーク」(超低消費電力で動作するネットワークインフラのハードウェア、ソフトウェアの開発)、「Planet Lab」(分散型ネットワークコンピューティングの世界規模オープンテストベッド。今年中に100サイト200人体勢を整え、来年は1000サイトを目標にしている)など、インテルが次世代に向けて力を入れている「戦略的リサーチ・プロジェクト」を紹介した。

 また、実用化に向けた研究開発を行っているインテルの社内ラボについても、「コンピューティング・テクノロジ」「システム・テクノロジ」「ネットワークテクノロジ」の3本柱に触れ、「コンピューティングテクノロジでは、ムーアの法則を持続させるためのパワーコントロールと並列処理のために必要になる新しいスレッド技術の研究を、システムテクノロジやネットワークテクノロジでは、あらゆるネットワーク環境で動作し、複数の電波をサポートしてあらゆる機器に安価で実装できるネットワークコントローラの開発をそれぞれ進めている」と説明したした。

 R&Dの最新研究成果として紹介されたのは、6月に国内で行われた無線技術研究説明会でも紹介された「ワイヤレスネットワークに関する研究内容」と、9月に米国で行われたIntel Developer Forum Fall 2003で紹介された「モバイルプラットフォーム研究活動」。

 ワイヤレスネットワークについて説明を行ったカーン氏は、CMOSで統合されて一つのチップであらゆるハンドをカバーする「アジャイル無線」やチャネルキャパシティを向上させる「スマートアンテナ」「アダプティブOFDM」について説明を行った。

 最初にも述べたように、今回のIntel R&D Dayの重要な目的は日本の産学官の研究機関に対するアピール。

 インテルの日本におけるR&D活動を説明した、インテル取締役兼通信事業本部長の高橋恒雄氏は、インテルが日本で行っている「技術的標準規格策定活動」の紹介と、コンピタンス・センターによる産業界や大学研究機関との協同研究や協同実験の紹介に終始。

 そして印象深かったのが、インテル キャピタル ジャパン代表のショーン・タン氏による、技術研究を支援するインテルの投資活動の説明だ。

 ショーン氏は「過去10年間で約1000企業に総額で約50億ドルの投資を行い、それらは約80億ドルの価値になった」とインテル キャピタルの投資規模を紹介したあとで、インテルが考える日本での投資テーマとして「パッケージやプロセス技術で世界トップレベルの半導体、ノートPCの蓄積がある電力管理や熱分散技術、そしてデジタル家電に代表されるコンシューマエレクトロニクス」と述べている。

 さらにショーン氏は「日本は研究開発の競争で依然として優位にたっている。中国の生産能力に目を奪われがちだが、ハイエンド製品の製造で日本は圧倒的に優勢だ」と日本の産業界がレベルの高い技術力を有しているとした上で、「しかし、日本の製造業は外部からの投資にたいして、まだ未成熟だ」などの弱点も指摘している。

 「技術的ベンチャー企業では、技術が先行して、何のために開発しているのか見失うことがある。だから、ビジネスモデルの支援が必要だ。市場の要求にリンクした商品を開発しなければならない」(ショーン氏)

 ゲルシンガー氏も「日本の技術の強みは?」という質問に対して「ガジェット的な小さなインテリジェンス機器の開発能力。微小化技術を駆使した新しいフォームファクタの開発。ブロードバンドの普及状況。そしてエンジニアの高い規律」と答えたすぐあとに「ただし、研究の方向が国際協調から外れている。技術的規格の標準化においてそのことが悪い影響を及ぼす心配がある」と日本独自の標準化や規格策定に対する危機感を示している。

 「まだまだ、日本は高い技術力をもっているのだから、我々と協力して国際標準の規格に則った方向で研究開発を進めていきましょう。もちろんお金は準備しますよ」というインテルのメッセージを日本の研究者にアピールしたIntel R&D Day。

 しかし、ゲストスピーカーとして最後に登場したNTTドコモ常務取締役の木下耕太氏が述べた「綿密な協力関係のもとに研究開発を進めているが、ユーザーからすれば、インテルが唯一のベンダーになるのではなく、インテル以外からも調達できるようになっているのが望ましい。セカンドブランドも育てていかなければならない」という発言が、招待された日本人の気持ちをよく代弁していたのではないだろうか。

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[長浜和也, ITmedia]

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