News | 2003年11月6日 09:17 PM 更新 |
日立製作所は11月6日、グローリー工業の顔認証技術を使った公共分野向けのバイオメトリクス認証システムを提供していくと発表した。具体的には、電子パスポートや船員手帳といった各種証明書に顔認証を使った新しい認証システムを開発していき、2005年度までの実用化を目指す。
急速な情報化社会の進展とともに機密管理への意識も高まり、より確実性のある個人認証手段が求められている中、その人固有の特徴(生態情報)をもとに個人を識別する「バイオメトリクス」が注目されている。
バイオメトリクスには古くからある指紋認証のほか、眼球の虹彩(アイリス)を使ったもの、声紋、掌形、静脈などさまざまな技術・手法が考え出されており、それぞれコスト面/安全性/心理的影響/精度などで一長一短がある。
その中でも、心理的な影響の少なさや自然な認証方法、不正抑止効果などから期待されているのが、顔を使った「顔認証」だ。機械を使って指紋や虹彩を照合する方法と違い、顔で誰かを判断するということは人間がふだんから行っているもっとも自然で親しみやすい認証方法といえる。
その一方で、“顔”は他の方式(生体部位)に比べて年齢経過による変化が大きく、また加齢以外にメガネ/髪型/化粧などや照明の当たり具合(影)など、誤認識の要因になるものが多い。精度やセキュリティレベルを求める認証には不向きといわれていた。
今回の顔認証技術を開発したグローリー工業は、同社主力事業である通貨処理機の技術を応用。偽造紙幣を瞬時に判別するノウハウを生かして、従来方式とは異なる「多重変動分析法による局所特徴比較方式」を顔認証に取り入れた。
「例えば人間が1万円を識別する場合、印刷模様すべてをチェックしているわけではなく、ある特徴点を比較している。この考えを人間の顔にも応用した。最大10万人の顔画像データから瞬時に個人識別が可能。従来とは異なるアルゴリズムによって、表情変化や加齢変化にも柔軟に対応し、高い精度で個人認証を行える」(グローリー工業)
その顔認識技術の仕組みはこうだ。
まず、世界中の人の顔画像データベースから「もっとも平均的な顔」を抽出して、その“平均顔”画像の表面に等間隔に点を100カ所並べて顔のサンプル点を定義する。
その平均顔サンプル点が、登録顔ではどこに存在するかを検出して各点の位置を平均顔にあわせて補正する。これによって、表情や撮影角度など顔の変化を取り除くのだ。認証の際には、入力顔でも同様の処理を行い、全体に暗かったり左右どちらかから光が当たるといった照明の変動もここで補正される。
このような平均顔との比較や補正によって、登録顔の各点が入力顔ではどの位置にあるかが判別できる。あとは、それぞれの点の顔情報を独自の方法で数値化し、類似度を計算して比較することで登録顔と入力顔とが同じかどうかを認証するという流れだ。
「日本人は日本人同士ならどこをみれば区別できるかを意識せずに体得している。だが、海外の人を見たときに、同じ人に見えてしまう。これは、違いを見分けるポイントを知らないから。今回の顔認証システムは、顔のどこを見れば区別できるのかといった特徴点をあらかじめ学習しているため、一見似ている人でもしっかり区別できる」(グローリー工業)
従来方式では10%前後の認識誤差があった顔認証だが、今回のシステムでは1%未満と認識精度も1ケタ向上している。だがそれでも、高い認識精度を誇る虹彩や指紋などと比べると単独の認証システムとしては非力だ。
「顔による個人認証は、免許証や社員証などで一般的なため文化的に馴染み深い。また入出国の搭乗手続きの際には今でも、パスポートを機械がいくら識別したとしても最後は人間の目でパスポートの写真と見比べる。指紋や虹彩のようなバイオメトリクスが導入された場合、このような最後の人間のチェックが難しくなる。従来、顔写真を個人認証に使っていたシーンなどで、今回の顔認証システムが活躍できるだろう」(日立製作所)
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[西坂真人, ITmedia]
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