News 2003年11月12日 03:00 PM 更新

「機能のシェイプアップは退化ではない」──バイオノート505エクストリーム(1/3)

本体内蔵の機能を本当に必要なものだけに絞り込み、最高の軽さと薄さを実現する。そこにソニーの技術者は所有欲を満たす「最高の品質」を追求したのである。

 「モノづくり伝統の復権」

 ソニーが今年、バイオの存在感を再び高めるために掲げた言葉である。その言葉の下に投入されたのが、バイオノートZ、バイオU101といった製品だった。

 そして、同社の常務取締役である木村敬治氏などが口にしていた、もうひとつのキーワード「ホンモノの放つ輝き」の一例が、ホンモノのサウンドリマスター機能を搭載したSonicStage Mastering Studio。

 とはいえ、ごく個人的な意見を言わせてもらえば「何かもうひとつ足りない」気がしていたのも事実である。彼らが自信を持って送り出した製品は、それぞれに優等生的な資質を持ち合わせているが、昔のソニーにあったほかを寄せ付けないような先鋭性を持つ製品がない。

 もちろん、低価格化、一般化の道を辿るPC製品の中で、そのような製品が売れる保証などどこにもない。しかし、ソニーはきょう登場した「新バイオノート505」で、「技術者が創ってみたい」「デザイナーが生み出したい」理想をカタチにしようとしている。

 そんな彼らの「作品」について、製品開発担当者とデザイナーといった開発の両側面から話を伺ってみた。今回はその前編として、商品企画担当の加藤雅巳氏、開発プロジェクトリーダーでエレクトロニクス設計担当の西野圭氏、筐体およびメカニズムを担当した辛島亨氏に登場していただく。


バイオノート505エクストリーム(PCG-X505)


バイオノート505エクストリームの開発スタッフ。左から辛島亨氏、西野圭氏、加藤雅巳氏

マス・マーケティングの手法に背を向けるところから始まった

 彼らの作品ともいうべき「バイオノート505エクストリーム」(PCG-X505)は、10.4インチ液晶ディスプレイ(最大解像度1024×768ドット)に17ミリピッチキーボードを採用しながら、通常モデルで825グラム、ソニースタイル専用のカーボン繊維積層素材モデルでは785グラム、最薄部で9.7ミリという究極の薄さと軽さを実現した。一方、価格は筐体素材の違いにより30〜35万円。いまのB5サブノートPCの相場からすると1.5〜2倍にもなる。

 製品の詳細は別記事を参照して頂きたいが、どのような発想から今回のモデルは生まれたのだろうか? 開発陣の話は、現在のPC開発で一般的に行われている「市場調査」に背を向けるところから始まっている。

 今や、PCはごく一部のマニア向け製品ではない。ニッチ市場のサブノートPCとはいえ、ある程度、広いユーザー層に支持される製品でなければコスト的にもペイできない。もちろん、マニア向けに創った技術的に尖った製品がブームを引き起こすこともあるが、そうした賭けを簡単にできないほど、今のPCビジネスはコスト優先主義に向かわざるを得ない状況になっている。

 ターゲットとするユーザー像を見極め、彼らがどんな製品を望んでいるのか、そして潜在的にユーザーとなる可能性がある市場規模はどのぐらいの大きさなのか。様々なマーケティングデータを元に、ある程度の数が見込める製品を作る。もちろん、量産製品としての数を出すためには、徹底したコスト削減も不可欠である。

 しかし、そうした手法が本当にソニーらしい製品に繋がるのか。そう皆が考えていたところに、2003年モノづくり伝統復権のスローガンが掲げられた。

 「品質を重視して、バイヤーとして本当に欲しいと思える、手に取ってみたい、所有したい。そんな欲望を満たしてくれるパソコンがあれば、それを受け入れてくれるユーザーはきっといるだろう。ビックリするほど薄くて、軽くて、かっこいい。そこにソニー製品の本質があると考えました」とは加藤氏。

 プロジェクトリーダーの西野氏は「僕はクルマが好きなんですよ。今のクルマって、すべてがフル装備で、当たり前のように快適装備がそろっている。そろっているのが当たり前になっているけど、ではすべてのクルマに必要なのか?と言うと、そんなこともない。マスゾーンに投入する製品は、何でもそろっていないとダメですが、そうではないユーザー層もあるだろうと。たとえばロータスエリーゼや340Rといった、究極の市販ライトウェイトスポーツ。その領域を量産のサブノートPCで体現したかった」と、基本コンセプトについて話す。

[本田雅一, ITmedia]

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