News 2003年11月13日 10:51 PM 更新

100円玉サイズのガスタービン発電機がケータイに搭載される日(1/2)

まもなく実用段階に突入するマイクロマシンの世界。いま業界が注目するのは「ビジネスモデル」に「産業化」。一方で、100グラム人工衛星や100円玉発電機といった「ドラえもん」を目指した研究も進んでいるようだ。

 11月12日から14日まで科学技術館で開かれている第14回マイクロマシン展。これに併設して13日に行われたのが第9回国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムだ。

 開発現場の第一線で活躍する国内外の研究者が、最新の技術情報を交換するこのシンポジウム。しかし、研究試作開発の段階から本格的な産業化の立ち上がりやビジネスモデルの模索といった、最近のマイクロマシン業界の流れを反映して、用意されたセミナーのテーマも「ビジネスモデルと展望」「産業への途」「技術戦略」といった経営的な言葉が並ぶようになった。

 そのなかで、最新技術の動向を取り上げたセッション「革新研究紹介」では、「100グラム人工衛星」「バイオハイブリッドナノマシン」「携帯用電源の研究開発」「NANO Channel」など、興味深い内容が紹介されている。

The Fabrication of a 100gm Co-Orbiting Satellite Assistant (COSA)

 Co-Orbiting Satellite Assistant(COSA)とは、地球の衛星軌道をまわっている人工衛星から分離して、さらにその周りをぐるぐる回るミニ人工衛星のこと。

 COSAの説明をしてくれたのはThe Aerospace Corporationのヘンリー・ヘルバジアン氏。彼によるとCOSAに想定されている任務は「母船である人工衛星のモニターとキャリブレーション」。

 日本が打ち上げた「みどり1号」「みどり2号」が連続して故障し放棄されたが、このようなとき、周りを回っているCOSAから映像やデータを送ることで、故障の原因を把握したり、人工衛星が正しい方向を向いているか確認できるようになる。


COSAと母船人工衛星のイメージ図。画面の右上に見えるのはCOSAではなく、COSAが映し出した母船の画像。母船の右上に「ぽつん」と見えるドットがCOSAに相当する。大きさの比率もこんな感じだ


母船とCOSAの軌道。母船から分離したCOSAは母船である人工衛星を周回する

 母船に搭載して打ち上げるので、COSAの軽量化と小型化は必須条件。ただし、衛星の周回軌道に乗せるため、COSAにもある程度の機動力を持たせないといけない。

 現在、COSAのスペックとして求められているのは「速度秒速8メートル、行動日数7日間、搭載する燃料は液化ブタンを500グラム」。限られた燃料で少しでも航続距離を確保するために、「1〜5マイクロメートルの精度で三次元造形で加工する」(ヘルバジアン氏)高効率のロケットノズルが必要になる。

 加えて、小型化を実現するため「ドッキングできる機能は複雑すぎて搭載できない」COSAは一回限りの使い捨て。「だから安価で大量に生産できなければならない」(ヘルバジアン氏)

 「高効率のロケットノズル」「安価な大量生産」を可能にしてくれるのが、マイクロマシンの生産技術である「マイクロエンジニアリング」だ。ヘルバジアン氏はプラスチックやシリコンなど従来から使われている素材を試してみたが、これらは加工精度の不足(プラスチック)や加工コストが高い(シリコン)といった問題を抱えていた。

 結局、ヘルバジアン氏が素材として選んだのは「セラミックガラス」。一般家庭にある皿やコーヒーカップで広く使われているものだ。素材そのものは成熟して完成度が高く、かつ加工も容易という利点がある。ただし、この素材も、従来手法による造形加工コストは高い。

 この造形加工コストを抑えるために、COSAの開発で使われているマイクロエンジニアリングが「Laser Direct Write Patterning」。これは、素材に直接レーザーでパターンを書き込む技術で、従来の手法と比較するとマスキングのステップが必要ないだけ、コストを低くすることが可能になるとヘルバジアン氏は説明している。


Laser Direct Write Patterningによるパターンエッチング。レーザーの出力をコントロールして、パターンの深さを制御する。また、レーザーのフォーカスを制御すると、基板内部にトンネルのようなパターンを造形することも可能になる


造形されたパターンを積層してCOSAの本体部分が構築される。現在は7層構造でフットプリントが5×5平方センチメートルの厚さが8ミリ。このなかに燃料タンク、燃料管、バルブ制御機構などが組み込まれる


組み立てられたCOSAモジュールVer3.1。ヘルバジアン氏の説明によると、バージョンは3.1だが世代的には二代め。いまは実験室で動き回る程度だが、次世代では実際に飛行可能になるという

バイオハイブリッドナノマシン

 マイクロマシンの最新技術として現在最も注目されているのが、生体素材を利用してマシンを構築するバイオハイブリッドナノマシンの分野。シンポジウムでは東京大学の竹内昌治助教授から、とくに分子モーターに関する研究成果が紹介された。

[長浜和也, ITmedia]

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