News | 2003年11月13日 10:52 PM 更新 |
現在開発されている分子モーターは、筋肉の動く仕組みを応用している。これは、筋肉線維を構成するミオシン(myosin)とアクチン(actin)にATPを消費させることで、アクチン線維の上をミオシンが移動する仕組みを利用したもの。ナノマシンでは、ガラスにミオシンを吸着させてその上にアクチンを敷き詰めた素子を生成している。そこにATPを注入すると、ミオシンが駆動して分子モーターが動き出すわけだ。
さらに、ミトコンドリアの細胞膜には回転運動をするアクチン線維が存在するが、これがATP1分子によって120度回転することが分かっている。
このような、生体内駆動を応用したナノマシンでは、電源が不要となるためシステムの小型化が可能になるメリットがあるその一方で、「生体物を人工物にいかにして吸着させパターン化させるか」「分子モーターの動きの制御をいかにして行うか」といった問題が出てきている。
吸着とパターン化の問題では、「PLL」と呼ばれる糊を使い、PLLにタンパクを貼り付ける研究が進められている。竹内氏の説明では「10ミクロンの分子を2ミクロンのギャップでパターン化に成功している」
動きの制御に関しても「ATPの注入と洗い流しでオンオフのスイッチになる」(竹内氏)と、モーターのスイッチは比較的簡単に実現できる(それでも、反応速度の問題から、ATPの注入や洗い流しから、モーターの状態が変化するまで20秒程度かかる)。
難しいのはスピードの制御。現在、試みられているのは、温度の変化で分子の活性化させる方法で、ヒーターにかかる電圧と分子モーターのスピードの関係を解析してモーターの動きを制御しようとしている。
また、生体素材を使うことで心配なのが「寿命」。せっかく苦労して吸着させてパーツを作っても、倉庫に放置していると、いつのまにか「死亡」してしまうわけだ。この生体素材の延命に関する研究は「先週から始めたばかり」(竹内氏)。いま進められているのは冷凍保存する方法。「先週から実験を行っているが、5日たった時点の“生存率”は、従来の10%から50%に向上している」(竹内氏)
100円玉サイズのガスタービン発電機
産業技術総合研究所の前田龍太郎氏による講演は「携帯用電源の研究」。小型化が進む携帯機器が多機能高性能になるにつれて、より大きな消費電力を必要としている状況の説明から始まり、次期バッテリーとして期待されている燃料電池の動向を紹介している。
しかし、それ以上に興味深かったのが超小型ガスタービン発電機の話。ガスタービンと聞くと戦闘機のジェットエンジンや軍艦のエンジンといったように、大出力高効率ながら携帯機器で使うには「とてつもなく大きい」と思うのが普通の感覚だ。
しかし、前田氏が紹介したのはなんと「コインサイズ」のガスタービン発電機。現在、MITで研究が進められているのはコンプレッサー径が8ミリ、タービン径が6ミリという超小型サイズ。ガスタービンユニット全体でも21ミリと「100円玉」サイズに収まってしまうというから驚きだ。
この超小型ガスタービン発電機の問題は、1000℃にも達する高温に素材のシリコンが耐えられないこと。この解決のため、東北大学では素材にセラミックを採用、タービンの効率を上げるためにブレード製造を三次元加工で行っている。この部分でも「マイクロエンジニアリング」技術が大いに貢献しているそうだ。
いま使われているボタン電池の代わりに、高速で回転するガスタービンが、カメラの中でとてつもない電力を発電してくれる。120万rpmの小さなタービンがどんな音を立てるのか想像もつかないが、すごいような怖いような「携帯用電源」が登場するのは「次の次の少し先」(前田氏)になる見通しだ。
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[長浜和也, ITmedia]
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