News:アンカーデスク 2003年11月17日 07:30 PM 更新

「プロバイダ責任制限法」に残る、これだけの課題(1/2)

「メールは特定電気通信ではない」?──「プロバイダ責任制限法」の施行から1年半。同法に基づいて発信者情報の開示を求めた裁判も複数行われた。しかしその過程で、さまざまな新しい問題点が浮上してきている。

 「プロバイダ責任制限法」が施行されてから1年半が経過した。この間、同法に基づき、発信者情報の開示請求が実際に裁判で争われたケースが複数登場しているが、その過程で新たにさまざまな問題点が浮上している。今回はそれらの中から特に心配なものをいくつか紹介してみたい。

 プロバイダ責任制限法は、正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」という。インターネット上で他人の名誉を毀損する、あるいはプライバシーや著作権を侵害するなどの行為が行われた場合に、被害者がプロバイダ(ISP)に対して、該当する情報の送信停止措置や、発信者情報の開示などを要求することを認めた法律だ。

UP0パッチを当てたWinMXは“特定電気通信”ではない?

 まず最初の問題点は、「P2Pによる情報流通」の場合に、どこまでが同法での規制対象となる「特定電気通信」に当たるのか、という問題だ。これについては、既に今年9月に東京地裁で判決が出た事例がある。それが、WinMXにより某エステ会社の個人情報ファイルを流通させたとして、被害者グループが接続に使われたISPであるパワードコムに発信者情報の開示を求めた一件(通称「パワードコム事件」)だ。

 原告側の代理人を務めた小倉秀夫弁護士によれば、この事例では、訴訟に踏み切る前に調査会社を使って実際に問題となったファイルのダウンロードを試みたところ、調査会社側のWinMXは「共有ファイル0」で、なおかつ相手に一切メッセージなどを送っていない状態だったにもかかわらず、同ファイルのダウンロードに成功したのだという。このことが訴訟中の事実認定でも大きく影響したようで、実際判例ではWinMXによるファイル共有について、

送信側コンピュータから受信側コンピュータに対する電子ファイルの送信は、受信側ユーザーの送信要求に応じて自動的に行われるものにすぎないのであるから、送信側ユーザーは、当該電子ファイルに含まれた情報を送信するのか否か、また、だれに対して送信するのかについて、関与することがないということができる。

との認定を下している。

 しかしこれを逆に読むと、「それでは『受信側ユーザの送信要求に応じて送信が自動的に行われない』場合はどうなのか?」という問題点が浮かび上がってくる。

 具体的には、「UP0パッチが当たったWinMXは『特定電気通信』には当たらないのではないか」という疑問だ。WinMXを使ったことのある人ならわかると思うが、UP0パッチが当たった状態のWinMXは、自動的にファイルを送信することはなく、基本的には相手の送信キューに対して送信要求を入れた上、インスタントメッセージなどでファイルを送ってもらえるよう交渉を行わなければならない(関連記事)。

 この場合、一応はIDやメッセージ交換で個人の特定が可能なわけで、そういった手順を踏んだ上でのファイルの送受信を『特定電気通信』の要件である「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」と呼べるかは疑問が残る。

電話会社に発信者情報の開示を請求できる?

 続いての問題点は、「ダイヤルアップ接続などの場合に、接続に使われた電話会社は『特定電気通信役務提供者』として、発信者情報の開示に応じなければならないのか」という問題だ。まだ判例はないが、南山大学の町村泰貴教授などが指摘しており、今後、問題となる可能性は充分に考えられる。

 というのは最近、あの「2ちゃんねる」が運営する「2ちゃんねるプロバイダー」に代表される一部のISPで、「IDとパスワードさえ登録すればサービス利用可」というサービスを行っているケースがあるからだ。これらのサービスでは、ダイヤルアップ接続で通話料金とISP料金があらかじめ合算されており、請求もすべて電話会社経由で行われる。このため、ISP側では一切の個人情報を持っていない。

 従来の同法に関する訴訟と同様の形で、ISP相手に発信者情報の開示請求を行っても、ISPに「ないものを出せと言われても出せない」と言われたら話が終わってしまう。そして、電話会社に開示請求が行えないと、実質的な救済が受けられないことになってしまうのだ。

 実際のところ、ダイヤルアップ接続の場合は、電話回線(=電気通信設備)を用いてユーザーとISP(=他人)の間の特定電気通信を媒介しているという点で、電話会社を「特定電気通信役務提供者」と解釈することはそう不自然ではない。ところが、現在同法で開示対象となる発信者情報として総務省令で定められているものの中に、「接続に使用された電話番号」など電話回線を特定する情報は含まれていない。

 ということは、仮にISPが接続に使用された電話番号等の情報を持っていたとしても、その開示が受けられない以上は、電話会社に開示請求を行うために必要な情報がそろわず、実質的に開示請求が困難となってしまう可能性が高いのではないだろうか。

電子メールが特定電気通信に含まれないという謎

[佐藤晃洋, ITmedia]

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