News 2003年11月19日 07:26 PM 更新

無線LANを使った高精度位置検知システムが製品化へ

RFIDを使った物流管理システムは今年のITイベントですでにお馴染みのソリューション。日立製作所はその市場に無線LANを使った製品を投入する。キーワードは「高精度」に「屋内外利用」だ。

 日立製作所と日立電線は、11月19日に無線LANを利用した高精度位置検知システム「日立 AirLocation」を発表した。7月に行われた日立ITコンベンションの会場で「BroadWAY」としてデモが行われていたシステムが製品化されたもので、出荷は20日から開始される。最小構成(サーバ1台、基地局5台、無線LAN端末10台、位置応用端末1台、位置把握ソフトウェア、導入コンサル、サポート)の価格は500万円から。


天井に設置されたAirLocation基地局。端末との間はIEEE 802.11bを使うが、サーバとの間は有線LANのみのサポートとなる

 AirLocationは、IEEE 802.11bプロトコルを利用して無線LANクライアントアダプタを搭載した端末の位置を把握するもの。無線LANはデータ転送のインフラとしても利用されるが、位置を測定する「電波」としても使われるのが特徴だ。

 このシステムは、有線LANで接続された「管理サーバ」「位置検知サーバ」と最低5台のAirLocation基地局、それにクライアントの無線LAN搭載端末で構成される。5台のAirLocation基地局のうち、1台は時刻同期信号を発信するのに使われる「マスター基地局」で、ほかの「スレーブ基地局」で端末から発信される「電波」を受信して位置を測定する。

 位置測定の仕組みには「TDOA測定による三辺測量」が使われている。これは、端末から発信される電波を3台以上の基地局で受信し、それぞれの基地局で受信した「時間差」を利用して端末の位置を測定するものだ。

 ならば「スレーブ基地局が3台でも測定できるのでは?」と思えるが、日立製作所の説明では「部屋の隅などの測定が困難なところでは、補完して測定できるように」4台の基地局が必要になるとしている。時間差を算出するために基準となる時刻の同期は、マスター基地局から送信される「同期信号」によって行われる。


AirLocationで使われる位置検知の原理。信号の到達時間差を利用したTDOAによる三辺測量と、マルチパスを排除する直接波検出技術がAirLocationのキーテクノロジーである

 基地局は通常の無線LANアクセスポイントと同じような概観をしているが、内部には位置測定情報として使われる送受信時間に関するデータや、受信した信号から、反射波などのマルチパスを取り除き、端末からの直接波を検出する機能をもった「位置情報検知モジュール」がハードウェアとして実装されている。

 なお、検知精度(精度を高めるためには送受信の頻度を上げなければならない)と11bの帯域の兼ね合いで、現在、基地局と管理サーバや位置検知サーバは有線LANで接続するようになっているが、将来、5GHz帯を利用するIEEE 802.11aなどを利用すれば、基地局とサーバの間も無線LANで接続できるようになると日立製作所は説明している。

 基地局が検知した受信時間を参照して、実際に端末の位置座標を算出するのは「位置検知サーバ」で動いている位置検知プログラムで行われる。基本的なAirLocationの構成(管理サーバ、位置検知サーバ各1台、基地局5台)で、同時に把握できるクライアント端末の台数は1000台と日立製作所は試算している。また、端末の台数が増えた場合は、サーバの数を増やし位置検出を並列処理することで対応する。

 AirLocationが提供するのは、端末の位置を把握してその情報を提供するエンジン部分。その位置情報を利用する実際の運用アプリケーションは、AirLocationを導入する顧客側で用意することになるが、その開発に利用できるライブラリやランタイムモジュールも「位置検知開発キット」として提供される。


AirLocationのモジュール構成

 日立製作所の調査によると、位置情報を利用したシステムの市場規模は、携帯電話やGPSなどのコンシューマー機器を除いても、2008年までに国内で4600億円、ワールドワイドでは3.7兆円規模に成長すると予想されている。さらに、このうちの半分以上が屋内で利用されるシステムになると日立製作所は見込んでいる。


日立製作所が予想する位置情報利用市場の急成長ぶり。同社は2005年で国内シェア10%確保、2006年でワールドワイドシェア数%の確保を目標としている

 物流における製品の位置把握システムとしては、すでにGPSやPHSを利用した位置情報ソリューションが提供されている。さらに、いま注目のRFIDを利用したAuto-IDなども、物流管理ソリューションとして期待されている。しかし、GPSやPHSを使ったシステムでは精度が3〜200メートル(GPS)、40〜70メートル(PHS)と製品の位置管理としては十分でなく、GPSは屋内の位置把握に使えないといった短所もある。AirLocationはこの問題を解決するシステムとして提案されたもの。

 ただし、気になるのがRFIDとAirLocationの差別化。RFIDが普及するまでのつなぎ的役割になりそうな危惧もあるが、「無線LANを利用しているので、双方向のデータ転送に対応でき、さらに、普及している11bを使うので導入が容易である」と日立製作所は説明している。

 ただし、製品の流れを把握するために、パレットや梱包単位で無線LAN端末を取り付けるには、駆動電源の問題と端末価格の問題をクリアしなければならない。

 この疑問について日立製作所は「技術の進歩で無線LAN端末の消費電力も下がってきている。しかし、実際の運用では、例えばパレットを移送するフォークリフトの動きをモニターし、動きが止まったところをパレットを置いた位置として把握するなどの方法を考えている。パレットや製品に実装することを想定した無線LAN端末の価格は公表できない」と答えている。


AirLocationの利用想定場面。物流業務ではフォークリフトに位置確認用の端末を搭載、「フォークリフトの位置」を把握することで、周辺にあるパレットの情報をオペレーターに提供する。現在、倉庫における作業の半分が「荷物を探す」作業に使われているが、この状況の改善が期待されている


こちらはスーパーにおけるAirLocationの利用想定場面。カートに搭載した無線LAN端末とメンバーズカードの組み合わせで利用客を特定、蓄積されている利用客の購買動向データに合わせた商品情報を提供する。これ以外にも利用客の動線データなどの解析にも利用することが考えられている

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[長浜和也, ITmedia]

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