News:アンカーデスク | 2003年12月3日 09:16 PM 更新 |
私的、エプソン論、キヤノン論
ただ、フラットベッドスキャナをフィルムスキャナと比べれば、フィルムスキャナが勝つのは当然。筆者はテストしていないため、直接比較は行っていないが、GT-X700はニコンの「5000ED」などと比べてもそこそこに健闘するようだ。
しかし、残念ながら勝つのは難しい。そりゃぁ、フィルムスキャナに比べ光学回路が長くて複雑で、なおかつガラスを通してキャプチャしているんだからアタリマエ。そもそも匹敵する画質になること自体、驚いているほどだ。だがエプソンの開発担当者はまったく満足していないのだそうだ。フィルムスキャナが不要なところまで画質を高め、使い勝手の面ではワンタッチで傷取りから各種補正を自動で行い、L版写真に印刷できてしまう。そこまでやらないと……というのだ。
こうした製品へのアプローチは、実にエプソンらしいと思う。筆者は1994年のカラーインクジェットプリンタ元年から、エプソンとキヤノンを常に比較しながら取材してきたが、エプソンは品質を高めるだけでなく、どん欲に新しい機能を追加し、マニア受けする調整機能を組み込みつつ、簡単にデジタルイメージングを楽しむソリューションを提供してきた。
ではキヤノンはどうか? キヤノンは基礎技術ではエプソンを上回る潜在力を持っていると思うし、品質管理も優れている。それを市場に投入したあとの営業力もスゴイ。とはいえ、多少生真面目過ぎるきらいもあり「技術的背景を持たないユーザーが使うコンシューマ製品は、機能はこれぐらい、調整項目も最小限がいい」と、対象ユーザーをバッサリ切ってしまう傾向がある。
それが一番よく現れているのは、フラットベッドスキャナやプリンタに付属しているソフトウェアだ。
例えばTWAINドライバ。エプソンの「EPSON Scan」は全自動モードからプロフェッショナルモードまで、幅広いユーザーに対し、それぞれに最適なユーザーインタフェースと機能を提供している。ユーザーは少しづつステップアップもできるし、スキャナにおまかせしてしまうことも可能だ。
一方、キヤノンの「ScanGear CS」は確かに迷いは少ないかもしれないが、あまり使わない機能はダイアログにしまい込まれており、ユーザーの成長に合わせて使い勝手が変わる要素も少ない。ちょっと凝ったことをしようにも、細かな調整のユーザーインタフェースが使いにくいといった欠点も見られる。
同様にプリンタの写真印刷ユーティリティも、エプソンの「PhotoQuicker」とキヤノンの「Easy-Photo-Print」(EPP)では、その思想が大きく違う。EPPは設定項目がほとんどなく、印刷品質の設定でさえ、メニューの奥にあるダイアログからしか行わせない仕様だ。その代わり、必要最小限の事だけしかユーザーに考える余地を与えない。徹底してシンプルさを追求している。
これに対してPhotoQuickerは、簡単に印刷させることも可能だが、その過程で指定できるオプションや機能が多く、ユーザーが知識を増やしたり、操作に慣れることでプリンタの機能を使いこなせるようになる多機能な面も併せ持っている。
カラーイメージング製品に限って言えば、エプソンの製品はよりマニアックで、キヤノンの製品はよりローエンド指向が強いとも言える。
先日、キヤノンで製品開発を担当するある女性から、こんな質問をされた。 「私たちキヤノンとエプソンの開発担当者、どこが一番違いますか?」。
答えに窮する質問だが、エプソンの方がずっと製品のアプリケーションにのめり込む傾向が強いように思う。写真画質のプリンタをやっている人たちは、本当に写真が好きで、自分自身が楽しむ製品を作りたい。そうした気持ちが見えるのがエプソンだ。
対してキヤノンの開発者は、それ自身を仕事として割り切った上で、製品の性能を高めることに執着している。これはごく一般論で、もちろんキヤノンの開発の中にも、製品のアプリケーションにのめり込んでいる人もいる。が、両者と付き合ってきた9年半を振り返ってみると「これは企業文化なんだよなぁ」と思うことしばしば。
もちろん、キヤノンのコンシューマー製品らしい割り切り方が、良い方向に転んで市場を広げることもある。たとえば1993年に発売された初代EOS Kissは、当時の中級機にも匹敵する性能ながら、操作性や機能の面では大胆な“割り切り”で驚かせた製品だった。しかし、EOS Kissが90年代の小型・軽量・低価格化の流れを作り、一眼レフカメラ市場の拡大に貢献したことは明らかだろう。
しかしデジタルイメージング製品は、まだまだ趣味的要素が強い。たとえば仕事やWebプリントに使うプリンタ、スキャナであれば、性能とコストのバランスを突き詰めれば製品は評価されるし、より簡単でシンプルにすることも重要だ。
しかし、これが写真を中心としたカルチャーを取り巻く道具となると、とたんに話が変わってくる。趣味、つまりはユーザーにとって楽しい事を中心にして、ユーザーはその道具をより積極的に使いこなそうとする。趣味が高じてプロになっちゃった、なんて話はよくあるが、ユーザーは楽しいことを起点にして大きく成長するものだろう。間口が広いのは多いに結構なことだが、その先には深みも同居していなければならない。
キヤノンはカメラという製品を通じて、多くのプロと共に趣味人も相手にビジネスを行ってきたハズ。この辺りのカルチャーに関しては心得があるはずだが、今のところ、プリンタとスキャナに関しては、事務機屋としてのキヤノンの顔の方が目立っている。
この辺りの意識、企業内での共通認識に変化が訪れたとき、彼らの作る写真画質プリンタや個人向け複合機、個人向けスキャナも、趣味人にとって奥深い製品になるだろう。
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