News:アンカーデスク | 2003年12月15日 08:52 PM 更新 |
適合性確認のための計算結果が足の引っ張り合いの材料に
とはいえ元々スペクトル管理SWGは、ReachDSLに代表される特定メーカーの独自方式もクラス分けの対象とすることになっているため、各メーカーが標準化方式を無視した提案をしてきても文句を言えない立場にあることを考えると、上記の行動はまだ許容範囲と言えなくもない。ただ最近の議論ではその範囲を超え、もはやメーカー間の足の引っ張り合いに突入しているとしかいえない状況を迎えつつある。
実は最近の2回の会合で議論が紛糾したのは、上り帯域拡張方式の他回線に与える影響の評価だけではない。実は従来異なる方式のDSL回線間の干渉の度合いを評価するために使われてきた、各参加者によるスペクトル適合性計算結果のクロスチェックの信ぴょう性を巡っても激しく議論が繰り広げられたのだ。
元々新たに提案されたDSL方式のスペクトル適合性の計算結果については、スペクトル管理SWGの参加者が任意でボランティアによる計算を行うこととなっている。だが計算手順が複雑なため、結果のミスや丸め誤差が出やすい事から、結果については複数社の計算結果が一致することでその信頼性を確認するという方式が取られていた。
しかし実際にはチップセットメーカーとDSL事業者のグループ化が進んだ結果、最近では参加者がGlobespan&ソフトバンクBB&アッカ・ネットワークスらとCentillium&住友電工&イー・アクセスらという2つの大きなグループに分かれ、それぞれのグループ内でスペクトル適合性の計算・クロスチェックを行う傾向が強まっている。
このため前回の第5回会合で、Centilliumらが提出したEU-TIF方式(Extended Upstream with TCM-ISDN Friendly PSD)方式の計算結果に対し、Globespanは「Centilliumは(TTCでスペクトル管理手法を規定した文書である)JJ100.01に100%準拠したシミュレーションを一度も出したことがなく、提案された計算結果は本当にCentilliumで計算したものかどうか疑わしい」との意見を表明していた。
今回会合でもイー・アクセスらのグループが提出したLD-TIF方式のクロスチェック結果について同様に「数値の信頼性に疑問がある」として再チェック期間を要求し、早期のクラス分けを望むCentillium・イーアクセスらと対立した。
ではGlobespanが一方的に悪いかというとそういうわけでもない。やはり第5回会合でCentilliumらの計算結果への疑いを表明し続けるGlobespanに対し、住友電工が「これまで(Globespanの提案する方式についても)ボランティアでクロスチェックに協力してきたが、そのような態度を取るのであれば今後はクロスチェックに応じられない可能性もある」との態度を表明して相手を牽制するなど、傍から見ると、両陣営が共にこの計算結果を利用して相手陣営の方式の導入を遅らせようと足の引っ張り合いを演じているようにしか見えないというのが実情だ。
しかもその結果、第6回会合では、新たにクラス分けの依頼があったDSL方式について、従来は計算結果のクロスチェック完了後速やかにクラス分け結果を公表する(通常1−2週間程度)となっていたものを、今後は原則として新方式のクラス分けには提案後最低6週間の間(=通常次回会合までの期間)を設けることとなり、新サービス導入に向けたタイムラグが拡大する結果となってしまった。
かつて7月の第1回スペクトル管理SWGでは、ソフトバンクBBの孫正義社長が「スペクトル適合性の計算結果については、数日以内に反対意見がなければそのままクラス分けを行い結果を公表すべき」とクロスチェック不要論を唱えた事すらあったのに(さすがにこれは極端な意見として却下されたが)、これは大きな後退と言わざるを得ない。
クロスチェック手順の細かい内容に関する問題はさておくが、これだけ揉めていることを考えると、これまでのボランティアに頼る確認のやり方を改め、スペクトル管理SWGの参加者が等分に費用を負担し、適合性の計算を行うための第三者機関を設置することをそろそろ本気で考える時期に来たのかもしれない。
逆にそれができないのであれば、相手を疑い出せばきりがない以上、あまりこの計算結果をめぐって争うべきではなく、ユーザの利便性を考慮すればできるだけ早期にクラス分けを完了して、事業者が実際のサービス提供に向けた活動に入れるようにすべきではないか。
標準化にしてもクロスチェックにしても、本来はどちらもエンドユーザーとなる消費者のために行うべき作業のはずなのに、最近のスペクトル管理SWGの議論はその視点を忘れ、自社の優位性を訴えるだけの議論が多すぎるように思える。これも個々の企業の利害関係が絡む以上ある程度はやむを得ない事なのかもしれないが、今一度企業の視点ではなく、ユーザの視点に立ち返った議論を行うことを一傍聴者として望みたい。
[佐藤晃洋, ITmedia]
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