News 2003年12月19日 07:51 PM 更新

Webカメラで“手話”のビデオチャット授業

学校教育における新たなコミュニケーションツールとしてPC&ブロードバンド活用が注目されている。東京都立大塚ろう学校で、Webカメラのビデオチャット機能を使った「手話コミュニケーション授業」がマスコミ向けに公開された。

 PCとインターネットを利用した新しいスタイルの学校教育が盛んに行われている。特に、近年のPC/周辺機器の高機能化やブロードバンドネットワークの普及で、さまざまな情報の受発信だけでなく新たなコミュニケーションツールとして役立てようという動きが活発だ。

 東京都立大塚ろう学校で12月19日、Webカメラのビデオチャットを使った「手話コミュニケーション授業」がマスコミ向けに公開された。


東京都立大塚ろう学校で公開されたビデオチャットを使った「手話コミュニケーション授業」

 今回の取り組みは、耳の聞こえない人々の社会参加を支援するNPOコミュニケーション支援センターの呼びかけによるもの。PCやWebカメラを使った手話コミュニケーションをろう学校の授業に取り入れ、生徒同士の交流を豊かで身近なものにすることに役立てようという試みに、大塚ろう学校と都立杉並ろう学校が協力して実現した。

 コミュニケーション支援センターは授業で使用するPCなどの機材や使いこなすためのトレーニングをサポートし、ビデオチャットに使うWebカメラは取り組みに賛同したロジクールが支援。同社最新のWebカメラ「Qcam Pro 4000(QV-4000)」を両校にそれぞれ6台ずつ計12台を無償で提供した。


ロジクールから無償提供された最新のWebカメラ「Qcam Pro 4000(QV-4000)」

 ビデオチャットはMSNメッセンジャーの「WebCam」を使用。大塚ろう学校側に7人、杉並ろう学校側に2人の小学5年生の生徒がモニターの前にスタンバイし、自己紹介や学校での出来事などをビデオチャットを使った手話で対話し、お互いの情報交換を行うなど交流を深めた。


自分の名前や学校での出来事を手話で対話

 TV並みのVGA画質で最大30フレーム/秒の滑らかな映像が“売り”の最新機種Qcam Pro 4000を使ってのビデオチャット(インターネット回線はADSL)だったが、使用したPC(FMV-6350DX2、Pentium II/350MHz)が古くいためWebカメラのパフォーマンスを出し切れず、数フレーム/秒程度のコマ落ちした映像になってしまっていたのは残念な点だ。だが、生徒たちはゆっくりとした手話動作で確実にコミュニケーションを取って遅れ気味な画面に対応するなど、その順応性は大人よりも高そうだ。


コマ落ち気味の映像にも子供たちはすぐに順応

 大塚ろう学校教頭の竹淵正人氏は「当校は東京都で一番古いろう学校ながら、PCへの取り組みには積極的。他のろう学校との交流を通じて社会性を深める狙いで実施した。距離が離れているなどで、これまでなかなか交流できなかった学校ととも、こういったビデオチャットシステムを使えば毎週何曜日のこの時間はお互いの自立活動の時間と設定できる。子供たちが操作に慣れてくれば、昼休みなどに自由に他校とのビデオチャットを体験させるといったことも考えている」と語る。

 「ろう学校が、手話によるビデオチャット授業を行った」――。当然の流れのように見えるが、手話が置かれた現状を少しでも知っている人ならば、この“画期的な出来事”に驚くことだろう。

 耳の不自由な人の気軽なコミュニケーション手段となっている手話だが、以前は多くのろう学校が手話を禁止していた。その主な理由は、手話での会話に慣れてしまうと音声(口話)を使う習慣が薄れ、読話力(相手の口の動きで言葉を理解する力)も身につかなくなってしまう点や、一般社会ではほとんど通じない手話よりも口話をしっかり身につけることが社会生活での活動の第一歩であるという考え方からだ。だが、今回の大塚ろう学校のように、コミュニケーションの手段として手話も積極的に取り入れているケースも最近は増えているという。

 「コミュニケーションの手段は多いほどいい。耳が不自由だと、どうしても国語力が弱くなってしまうが、ビデオチャットなら文字入力を併用することでPC操作とともに国語力もついてくる。ただし、コミュニケーションを取れるだけのキー入力技術が、小学生では身に付いていないケースがほとんど。その意味でも、気軽なコミュニケーション方法として手話によるビデオチャットには期待している」(竹渕氏)

関連リンク
▼ NPOコミュニケーション支援センター
▼ ロジクール

[西坂真人, ITmedia]

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