News 2003年12月19日 11:56 PM 更新

バイオノート505エクストリーム「モック物語」(1/2)

今回の主役は開発過程で数多く誕生した「モック」。その形状の変遷からは、開発陣の悩みの過程が見えてくる。そこで、ようやく解禁となったモックの変化をたどりながら、X505誕生ストーリーを探ってみよう。

 とにかく薄い、とにかく軽い、キーボードが前にある、なんと長繊維カーボンファンバーを使っている、有線にしろ無線にしろLANのアダプタが筐体に内蔵されていない、表と裏が区別できない、などなど。

 そのスタイル(と価格)でユーザーの度肝を抜かしてくれた、今年のキング オブ ノートPCとも言うべき「VAIO PCG-X505」その最大の特徴であって、X505開発において最優先事項であったのが世界最薄の筐体フォルムだ。

 しかし、一朝一夕であのスタイルが出来上がったわけではない。設計陣とデザイン側(といってもほとんどは森澤有人氏が1人で手がけている)で繰り返された意見交換と、多数のモックによる検討、そして筐体内に押し込められるパーツやチップのレイアウトの影響まで考慮した末に、ようやく到達したのである。

 今回は、長い長い道のりを経てデザインが固まっていく過程を、本邦初公開となる「X505のモック」とともに、追いかけていくことにしよう。


今回、モックの解説をしてくれたのは画面右の辛島亨氏。X505の開発では筐体およびメカニズムを担当している。真ん中の西野圭氏(プロジェクトリーダー兼エレクトロニクス設計担当)と画面左の佐藤英和氏(プロジェクトマネージャー)は、次回「基板編」に登場する予定だ

 辛島氏がまず最初に取り出したのが、キーボードが奥にあるレイアウトのモック2タイプと、のちに製品で採用されることになるキーボードを手前に配置したモック1タイプだ。この三つのモックが開発当初にあたって設計陣がデザイナーに提示した筐体デザインのベースになっている。




開発モック タイプ1。キーボードを奥に配置して基板と重ね、パームレストの下にはHDDとPCカードスロットを配置した、従来型のオーソドックスなデザイン。この段階では、インタフェースもUSBにメモリースティック、LAN、i.LINKと一通りそろっている。なお、このモックにはC1のキーボードユニットが搭載されているが「手持ちのコンパクトなキーボードユニットとしてモックに使っただけで、スティックデバイスとタッチパッドを併用する構想は持っていなかった」(辛島氏)




開発モック タイプ2。キーボードを手前に配置したデザイン。結局これが製品版のベースとなった。しかし、製品版より奥行きが長く、LAN(ポップアップ式)、メモリースティックスロットを筐体に内蔵している。ただし、このモックではPCカードスロットを内蔵していない




開発モック タイプ3。これは、バッテリーユニットを外した状態ではない。底面を見ても分かるようにフロント部分を極限まで薄くして「板」にしてしまったデザインなのだ。「CADの画面ではいい感じだったが、実際モックになったものをみるとさすがに極端すぎた」(辛島氏)

 筐体デザインに関わる部品のレイアウトで、最も困難を極めたのが「バッテリーの搭載位置。オーソドックスタイプの筐体にバッテリーを置くと薄さを実現できなかった。そのため、液晶パネルユニットを本体とは別に、二つのモックを作成した。一つはオーソドックスな薄いタイプ。そして、もう一つはリチウムポリマーを液晶パネルの裏側に配置した厚手タイプだ」(辛島氏)

 しかし、「薄く軽く」というX505の大前提が、厚い液晶パネルユニットの採用を断念させた。「液晶を支える筐体とのバランスがあまりにも悪かった。筐体を薄く軽くする大前提があったので、液晶パネルユニットを重くするとひっくり返ってしまう可能性が高かった」(辛島氏)

 また、液晶パネルから本体に電力を供給するケーブルは、必然的にヒンジを通さなければならないが、ほかのケーブルも狭いヒンジ部分に集中するなどの構造的な問題も発生した。

 結局、薄手の液晶パネルユニットを本体に組み合わせ、行き場のなくなったバッテリーユニットは、初代505とおなじ円柱形状になって筐体背面に取り付けられることになった。


薄手の液晶パネル(上)とリチウムポリマーを基部に搭載した厚手タイプ(下)。厚手のタイプも先端に向かってテーパをかけ、さらにエッジも処理して少しでも薄く見えるような努力している

[長浜和也, ITmedia]

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