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ソニーによって生かされるアイワのDNA(2/2 ページ)

» 2004年01月19日 20時14分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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「怪しくない」MP3の世界はアリか

 またMP3の転送には、専用ユーティリティ「Music Transfer」が必要だ。オーディオ自体をいじるわけではないが、このソフトで管理情報を付加することにより、音楽データがpavitから引き出せないような措置が取られている。いくらアイワが「やんちゃなブランド」という位置付けとはいえ、さすがにソニーから出す製品として単にコピーすれば聴けますみたいなのは、なんぼなんでもやんちゃすぎるということだろう。

 だがMP3プレーヤーは、ある意味ベンチャーが築き上げてきた文化であり、怪しさというかいい加減さというか適当さがウリという側面も否定できない。大量に記録できるHDDプレーヤーはセキュアなシステムを採用しているが、メモリベースのプレーヤーには抜け穴が多い。容量と怪しさがトレードオフの関係にあると言ってもいいだろう。アイワのようなキチッとした製品を買う人は、今までのMP3プレーヤーを知る人とはまた違ったレイヤーに存在するのではないだろうか。

 プレス発表会のデモンストレーションでは1つの解答として、「AZ-RS256」のような製品をストリート系に向けて発信、という方向性も打ち出された。だが筆者の認識不足かもしれないが、ストリート系の人間に対して、MP3プレーヤーのような製品にフックさせるのは難しい。商品価格がライフスタイルに合わないのではないかという気がするのだ。

ヘビーデューティモデル「AZ-RS256」。腕に付けるためのアームバンドが付属

 平たく言ってしまえば、駅前の広場なんかで見かけるスケボー小僧が、これを買うほどお金を持ってるとは到底思えんということなんである。人のライフスタイルにケチを付けるつもりはないが、ああいうニイチャン達は金さえあったらとっととストリートを卒業して、別のとこで遊ぶんじゃないかと思うが、どうだろうか。さらに言うならば、MP3プレーヤーにはPCが不可欠だが、ストリート系人間とPCで遊んでいる人間とはベクトルとして正反対のような気がしてならない。

 米国や韓国では、ヘビーデューティモデルをもっと健康的な「スポーツモデル」として売り込み、成功させている。スポーツやダイエットといった健康志向には、ユーザーは比較的お金を出しやすい。「AZ-RS256」や「HZ-DS2000」のような製品は、販売チャンネル次第だという気がする。

HDDタイプのヘビーデューティモデル「HZ-DS2000」

 ただし日本では、トレーニング中に音楽を聴くというスタイルは、定着にもう少し時間がかかる。どうしても日本のスポーツ教育は、ストイックに取り組むのが美徳とされているようなところがある。筆者の経験では、スポーツジムなどで自分の音楽を聴きながらトレーニングするのは、最初の1ステップにちょっと勇気がいる。

日本人気質のDNA

 もし韓国、台湾製有象無象のMP3プレーヤーに対して、アイワの製品に何らかのアドバンテージがあるとするならば、それは「音」だろう。多くのMP3プレーヤーは、デフォルト状態ではAMラジオみたいな音しかしないものだ。小型化、低価格化のツケとして、内部パーツや付属ヘッドホンの品質が大きく足を引っ張っているのである。

 今回実際にアイワのいくつかのモデルを視聴してみたが、付属イヤホンやヘッドホンの質が高く、なかなかの音に仕上がっている。発表会では周囲がうるさくて、正確な評価を下すには不十分な環境であったが、「いい音」とは言わないまでも、その辺のMP3プレーヤーにはない「ちゃんとした音」で鳴っているのが確認できた。このあたりに、痩せても枯れても元オーディオメーカーとしての意地が感じられる。

 最近のMP3プレーヤーは機能過多で、実用性皆無なサウンドエフェクトなども使い切れないほど搭載しているものだが、AIWAの製品には従来スタイルのMDやCDプレーヤー同様、M.D.S.E(MP3 Digital Sound Enhancer)と呼ばれる低域補正機能があるのみだ。それでも多くのユーザーにとって、十分満足できる音質だろう。

 日本のオーディオ業界はじり貧状態にあるとはいえ、安かろう悪かろうのココロザシの低い商品に手を染めるまで落ちぶれていないところは、賞賛に値する。そんな市場を支えているのは、実は中年以上の耳の肥えた消費者だ。

 このレベルをキープするためには、今の破壊圧縮音楽、あるいはJ-POPの安っぽい音に慣れきった若い世代の耳を育てていく必要がある。ポータブルプレーヤーは若い世代のものだが、その世代にちゃんとしたクオリティの製品をあてがっていくことが、耳の肥えた日本人気質を次世代へ引き継ぐための「種まき」なのかもしれない。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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