ITmedia NEWS >

“脊髄反射”的非難に何が見えるNews Weekly Access Top10(2004年6月6日−6月12日)

» 2004年06月14日 17時52分 公開
[小林伸也,ITmedia]

 富士通とSamsung SDIのPDP特許紛争がスピード解決したり、シャープの液晶TV特許紛争など、知財関連の話題が多かった昨週。「不安をまき散らした『MSがダブルクリックの特許取得』の誤解」という記事がアクセスを集めた。

 この話題、元々は「MS、アプリ起動用ボタンに関する特許取得」が発端。「ボタンを1度押した場合、しばらく押し続けた場合、短い間に2度押した場合でそれぞれ違う機能を立ち上げる手法に関するもの」だったが、これを米国のネット界の住人は「MSがダブルクリックの特許を取った」と早合点。早速、(おそらく嬉々として)非難を始めたのだった。

 もちろん、これはいわゆる「ダブルクリックの特許」ではなかった。米国のアナリストは「特許状を読めば(それがダブルクリックを指していないことを)確認できる」と指摘しつつ、「明らかに、多くの人々はそれを読もうともしていない」とコメントした。

 記事はさらに続けて「今回の一件のポイントは、この(アプリケーションボタン)特許が認められたことではなく、この特許が非常に反射的な嘲笑をもって迎えられたことにある」と見る。「これはむしろ、Microsoftに対する一部の人々の本能的な反応と関係がある。(特許認可の)ニュースそのものよりも、それをめぐる噂のほうが興味深い」と前述のアナリスト。

 あまり関係はないのだが、「オルレアンの噂」という言葉とともに何となく思い出したのは「アラン・ケイ氏に京都賞」というニュース。同時にドイツ人哲学者のユルゲン・ハーバーマスも選ばれた。ハーバーマスは技術哲学やコミュニケーション論についての著書で著名で、本誌読者にもなじみのある方もいるだろう。

 ハーバーマスの略歴はここ。フランクフルト社会研究所に在籍したこともあり、いわゆる「フランクフルト学派」の流れをくむ1人だ。

 同研究所は「啓蒙の弁証法」で知られるホルクハイマーとアドルノ、「自由からの逃走」のフロムなどが在籍したことで知られる。同研究所はナチス(NSDAP)がドイツで政権を取る以前、一般のドイツ人を対象にある心理調査を実施した。調査結果は当時のドイツ人に潜む「権威主義的パーソナリティ」の存在を強く示すもので、同研究所はナチスの政権奪取は不可避と結論。ひそかに脱出準備を始めたのだった。

 さて「2ちゃんねる、著作権を侵害中?」が相変わらず多数のアクセスを集めている。熱心な読者の方から以下の質問を頂いた。

 「厳密に解釈するならば、単にコピーした時点で真贋でいえば偽物ですよね? 現物とはかなり相違しているはずで、その場合は加工した時点で新たな著作権が生じているということは否めないのではないでしょうか?音楽でいえば、単に調を変えただけで、その加工した人が著作権を得ている現状からいえば、絵画などについては色調や尺度に加工がみられた場合などは、原本の著作権を適応するには少し無理が生ずるものと思われますが、如何なものでしょうか?」

 こと絵画のデジタルアーカイブ、という点に限って考えると、元の絵画を単純にコピーしたデータにはやはり著作権は生じないようだ。スキャンの過程で色調などが変わったとしても、それは技術上の問題であって、独自の創作性はないためだ。

 例えば漫画雑誌をスキャナでPCに取り込んだデータに対し、「色が若干変わった、これはオレにも著作権がある」と主張してネット公開するには強い勇気がいるだろうと思われる。

 ただ読者の方が続けて指摘しているように、「原画のコピー(加工)に新たな創造的解釈が認められた場合については、2次的な著作権が発生すると理解してもよろしいのでしょうか」というのはまったくその通りのようだ。最終的には裁判官の心証にゆだねるしかないが、名画を使ったパロディには著作権が生じる、という考え方は素直に納得できるだろう。

 従って、海外のある絵画アーカイブサイトが最近募集していた「裸婦像を子どもにも安全なように改造した作品コンテスト」などの場合は改造者に著作権が発生すると考えていいだろう。これはロココ風の女神や、アングルの傑作中の傑作「泉」の裸婦にPhotoshopなどを使って服を着せ、セキュア化するという企画だった。むしろ扇情的になったものもあって、何だかすごかった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.