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ASPは本当に中小企業向けか? サポートをめぐるジレンマ国内ASP事情――CRM編

» 2004年06月15日 10時39分 公開
[中嶋嘉祐,ITmedia]

 米国株式市場ではIT企業の新規株式公開(IPO)が上向き、今年はGoogleのほか、salesforce.comがその目玉になるとされている(関連記事参照)。salesforce.comは、ASP型のCRMサービスを提供。従来型のパッケージ販売ではなく、月額課金式のサブスクリプションモデルで自社ソフトを売り込んでいる。

 サブスクリプションモデルは2010年までにソフト購入の主流になるとの予測も現れ、SiebelなどもASP事業を強化する戦略を採っている。

 米国で注目を集めるASP市場、国内の動向はどうなっているのか? パッケージとASP、両方のモデルでCRMソフトを販売するサイボウズに、ASP市場の展望を聞いた。

1度は敗れたASP

 サイボウズは2001年12月、ファーストサーバと提携し、本格的なASPサービス「サイボウズ Office 4 for ASP」を開始。ただし、既にドットコムブーム期の2000年ごろから、ホスティング会社やサービスベンダーからの誘いを受けていたという。

 「(2000年以前に)サイボウズ OfficeのASP版をテストしたことがあった。しかし、ユーザーの利用数がそもそも少なく、本格展開は見合わせていた」と同社の赤松洋介・エージェント事業部ビジネス開発室統括マネージャーは説明する。その後、米国でASP型の確定申告ソフトの利用が広まり、それを知った同社もASP事業を1度試してみる考えになったという。

 ドットコムブームのころには、「インターネットでサービスを提供すればもうかる」という考えがベンダーの中にあったと赤松氏は話す。しかし、ユーザーにとってASPは新奇なモデルで、手厚いサポートがないと導入に踏み切れず、国内のASP市場は一時的に収縮したという。「需給バランスのミスマッチ。ASPサービスのコストメリットが十分に認知されておらず、サポートも3日後にメールで返答が届くというような状況だった。接続環境を問題視する向きもあったが、高速回線化していた顧客も、別のところに問題点を感じていたようだ」。

photo 赤松洋介氏(サイボウズ・エージェント事業部ビジネス開発室統括マネージャー)

予想と外れた顧客像

 サイボウズはASPを本格展開した当初、提携先のファーストサーバでレンタルサーバを契約する顧客を取り込む計画だった。ところがふたを開けてみると、契約のほとんどは、ファーストサーバを利用していない顧客。「サイボウズの広告を見て申し込む顧客が多かった」と赤松氏。

 事前の予想では、「サーバの管理方法が分からない」といったITに詳しくないユーザーの申し込みが多いと想定していた。しかし実際のところは、ITに詳しいユーザーが十分に検討した上でASPを選ぶケースが多かったという。

 「当時のパッケージ版の平均ユーザー数は60人程度。それに対してファーストサーバからの利用は20−25人程度だった」。パッケージ版のサイボウズ Officeでは、10ユーザー版の次の設定が50ユーザー版。それに対してASP版では10ユーザーごとにライセンスを追加できるモデルだった。パッケージ版を導入すると割高になると理解した上で申し込む『先進的なユーザーが多かった』」と同氏は話す。

 同社は現在、ファーストサーバのほか、GMOなどの主要ホスティング会社の大半と提携。ASP版を中小企業向けに売り込む体制を整えている。

 その一方、最近では意外にも、ASP版を100、200、300というユーザー単位で申し込む事例が増えている。「大手企業では、生産性のないところに人手を割きたくないという考えが広まっている。料金が割高になっても目をつぶり、アウトソーシングするというニーズが高まっている」。同社はこうした利用先も狙う考えだ。

サポートをめぐるジレンマ

 ASPでは初期導入費用が少なくて済むが、長期的に見るとパッケージ版の方が安上がり。またパッケージ版では、販売窓口となるSI事業者がコンサルティングし、顧客のIT環境に合わせて提供する。

 先に触れたように、サイボウズは中小企業向けの販売を一つの軸にする方針。ただ中小企業相手の場合、ITに詳しくない顧客は手厚いサポートを望む一方で、費用を抑えたいとも考える。費用を抑えるとなると、ベンダーは手離れをよくするため、サポート分を削るというジレンマが起きる。

 「値段を高額にして手厚いサポートを付けると、市場が狭くなる。安価にして手離れをよくすると、強引な押し売りという批判の恐れがある。悩みどころだ」(赤松氏)。

CRM市場におけるASPの展望

 徐々に浸透しつつあるASPだが、サイボウズの売上に占める割合はまだ低い。「売上で見るとASP版は数%。ユーザー数で見ても数%レベル。ただし、パッケージ版の契約では初期の支払いが大きい。パッケージ版の申し込みが減る時期は、ASPの割合が増えることになる」。

 だが今後は、ASPが売上に占める割合は増えていく見通しだ。「グループウェア市場そのものは劇的に伸びる市場ではない。ただ、同じような状況のメール市場では、ソフト売上をメンテナンスやサポートの売上が上回るほどになっている。ASPも同様に、ソリューションとして提供するようになると考えている」。

 ASP版は、パッケージ版に比べてライセンス更新率が高く、常に最新バージョンのソフト提供ができるなど、サイボウズにとって魅力的なモデルだという。「今後はASPを使った製品提供を増やすとともに、今の顧客をASPに移行させ、サポートしやすい環境に持っていきたい」(赤松氏)。

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