ビル・ゲイツと福沢諭吉、どちらも人の可能性を育てる“ツール”を広めた――。米Microsoftのスティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)は6月29日、慶応義塾大学でそう語った。
マイクロソフトと同大学の合同国際シンポジウム「デジタルコンテンツを彩る先端技術」で、バルマーCEOは「教育分野とともにイノベーションを」をテーマに講演。「ITの魅力はイノベーション。これまで不可能だったことを可能にする道具だ。ITは教育の次に重要なものだ」と学生らに語りかけた。
ただし「イノベーションは大学などの学術分野から起こるべきだ」という。日本では先日、学生に「Visual Studio .NET」を格安で販売し、コミュニティサイトも開設する学生開発者向け支援策を発表(関連記事参照)。大学を支援する活動に積極的に取り組んでいるとPRした。
冒頭の言葉は、学生からの「福沢諭吉とビル・ゲイツに共通点はあるか」という質問への答え。「どちらも人間の可能性を信じた。近代教育の父とPC革命の貢献者。それぞれ教育とITという可能性を育てる“ツール”を広めた」と説く。「ただ、ビルはお札の顔にはならないだろう。金で有名なところは同じだが」と続け、笑いを誘った。
バルマーCEOの見るところ、デジタルコンテンツ分野での日本の強みはゲームやアニメ分野だ。「私には子供が3人いる。自宅には当然Xboxもあるが、子供たちは『Nintendo』と『Pokemon』にはまっている」。
定番の「10年後のITはどうなるか」という話題に触れ、会場に向けて「10年後、ハイテクの使い方は劇的に変わると思うか」と質問。多くの参加者が挙手して賛成した。
「私はビジネスマン。ゲイツと違い、ビジョンを持つ人間ではない」としながら、「日本でも10年前には携帯は広まっておらず、慶応大学はインターネットを本格的に導入した数少ない例として紹介されていた。10年後も同じくらいの変化が起きるだろう」と予言してみせた。
「それなら20年後はどうなっているか」という質問も。これには「OSを事業の柱にするという20年前の判断は正しかった。だが、私もビルもPCが1億台売れるなんて夢にも思わなかった」とお手上げの様子だったが、「20年後、私はMicrosoftを辞めているだろう」は果たして──。
続いて講演した同大学環境情報学部の徳田英幸教授は、20年後よりもっと近い未来、2008年のユビキタス社会のイメージ映像を披露した。
映像では、舌の上に非接触ICチップを装着した学生らしき男性が登場。チップは電子マネー機能を持ち、自販機からジュースを買ったり、Suica機能で電車にも乗れる。店頭で気に入った楽曲はデータで購入し、ウェアラブルプレーヤーにダウンロード。その場で音楽を聴けるようになる。
徳田教授はユビキタス社会に必要なソフトウェアについて研究しており、開発した「Smart Lamp」を紹介した。部屋の四隅に置くだけでユビキタス環境が構築できるという照明機器で、例えば人に埋め込んだRFIDを検知して室内の人数を認識し、赤色ランプの光量を自動調節してくれる。「ユビキタス環境を作るには時間と労力がかかる。例えばカーペットを敷くだけで済んでしまうなど、もっと簡単な方法で作れないか」という思いが出発点だ。
「今後は物理空間とサイバー空間をどうつなげるかが問われてくる。マサチューセッツ工科大学などで『アトムとビットをどう結ぶか』と言われている問題だ」と徳田教授。インターネットが火を付けたIT革命は、人と人とのコミュニケーションをネットワークを使って拡大してきた。これからは人とモノとの“意思疎通”が課題になる、との予測だ。
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