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海賊行為防止法、上院通過への「反発」と「歓迎」

» 2004年06月30日 18時24分 公開
[IDG Japan]
IDG

 ファイル交換ユーザーへの民事訴訟を認める法案が米上院をたやすく通過したことに、消費者団体は反発し、音楽・映画業界は快哉を叫んだ。

 この法案「Protecting Intellectual Rights Against Theft and Expropriation(PIRATE)Act of 2004」は先週、満場一致で上院を通過した(6月26日の記事参照)。この法案は、オンラインで著作権を侵害されたと考えるコンテンツ保有者に対し、米司法省がこれまで以上の法的支援を提供できるようにする。現行法の下では、司法省はファイル交換ユーザーに対し、懲役刑につながる可能性のある刑事訴訟のみを起こせる。この法案が下院を通過したら、金銭的な懲罰につながる民事訴訟も起こせるようになる。

 上院通過の後、この法案は下院司法委員会に送られ、公聴会が開かれる。公聴会は7月4日(独立記念日)後の議会再開の際に開かれる可能性があるが、下院がいつ同法案の票決に至るかはいまだ不明だ。

各方面の反応

 この法案は既に、さまざまな反応を引き起こしている。

 「この法案の問題は、大手コンテンツ保有者が既に、ファイル交換ユーザーを追及するための自由に使える法的手段をたくさん手にしており、その手段がますます増えている点にある」とP2P業界団体P2P Unitedのエグゼクティブディレクター、アダム・アイスグラウ氏は語る。「この法案は、これまでにコンテンツ業界が損害賠償を求めて自腹で起こしてきたのと同じような民事訴訟において、司法省を映画・音楽業界のための法律事務所に変える」

 しかしこの法案の提案者は、民事訴訟を起こす権利を著作権保有者に限定すれば、彼らの著作権侵害を証明する負担が高くなるばかりだと主張する。著作権保有者は有罪判決の可能性に金を賭けなければならない、とも。

 「この法案(PIRATE Act)は、形勢を一転させるようなものにはならないだろう」と米国映画協会(MPAA)の副社長兼技術・ニューメディア担当法務顧問デビッド・グリーン氏は語る。「この法案は、司法省の矢筒に新しい矢を1本加えるものだ。司法省は重要なケースでは民事訴訟を起こそうと考えるかもしれない。しかし、刑事訴訟で科され得るような重い制裁は保証していない」

 グリーン氏は、刑事訴訟において著作権侵害で有罪判決を受けた場合、5年の懲役を科される可能性があるが、民事訴訟での有罪判決は金銭的な懲罰のみが科されるとしている。

 PIRATE Actは「連邦訴追官に、侵害行為の性質に最も合った著作権侵害訴訟を起こす柔軟性と決定権を与える」と全米レコード協会(RIAA)の会長兼CEO(最高経営責任者)ミッチ・ベインワル氏は発表文で述べている。

 RIAAは、2000年から2003年にかけてレコード会社の卸売上が25億ドル減少した主な原因として、海賊行為を挙げている。

強力な後ろ盾

 PIRATE Actは上院のパトリック・リーヒ議員(バーモント州選出・民主党)が提出、共同提案者は上院のルマー・アレキサンダー議員(テネシー州選出・共和党)、オリン・ハッチ議員(ユタ州選出・共和党)、チャールズ・シューマー議員(ニューヨーク州選出・民主党)と強力な後ろ盾を持っており、一部では下院で通過する可能性は高いと言われている。

 同法案は、「もっと多くのクリエイティブな作品がより手ごろな価格でオンラインで提供されるようになり、その作品を提供する人が対価を受け取れるようになることを保証する」とリーヒ議員は3月にこの法案を提出した際に語った。

 またこの法案では、司法省が全米の連邦訴追官に向けて、デジタル資産に著作権法を適用・執行するより良い方法についてトレーニング・試験プログラムを行うことを求めている。

 P2P Unitedのアイスグラウ氏は、法律は、P2Pネットワークで配布されている作品の対価をコンテンツ保有者に補償する最善の方法ではないと指摘する。同団体では「Collective Licensing」と呼ばれる方式を提案している。この方式では、空のCDや記録型DVDドライブ、高速インターネットアクセスなどから少額の「税金」を徴収し、それを集めた共同基金からコンテンツ保有者に補償する。

 「この方式なら、米国の6000万人のファイル交換ソフト利用者を、『犯罪者』から『顧客』に変えられる」(同氏)

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