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小中高のIT教育、まず先生から

» 2004年07月09日 20時06分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「2005年度までに、すべての小中高等学校の授業でコンピュータを活用できる環境を整備する」――政府の「e-Japan戦略」の目標のひとつだ。

 ハード面の設備は整ってきている。昨年度末時点で、1校あたりのPC平均台数は小学校で24台、中学校では41台、高校では94台。普通教室へのプロジェクター設置も進んでいる。

 しかしPCを活用して授業できる先生はまだ少なく、せっかくのハードを活かし切れない。e-Japanのもう一つの目標、「2005年度までに、すべての小中学校の教師がITを使って授業できるようになる」の達成には遠いようだ。

 文部科学省の統計では、コンピュータを使って教科指導ができると答えた教師は、小学校で66%、中学校で46%、高校で38%。だが「実際はもっと少ないだろうというのが私たちの実感」と、ICT教育推進プログラム協議会の吉田由加利さんは言う。

 同協議会は教育現場へのIT普及を目指し、昨年11月に設立。ICTは「Information and Communication Technology」の略。小学校や高校の教師、教育委員会職員などで構成し、マイクロソフトなどが協力している。吉田さんは、マイクロソフトの法務・政策企画統括本部政策企画本部事業開発部のプログラムコーディネーターでもある。

教師のITスキルを上げる取り組み

 2001年度の調査によると、教師の平均年齢は41−43歳で、高齢化が進んでいる。「年配の先生にはPCアレルギーの方も多く、若い先生にPCを教わるのを嫌がる人もいる」(吉田氏)。

 PCを使いこなせない教師のために、同協議会は5月から、無料のITスキルアップ講座を始めた(関連記事参照)。校務や授業にITを取り入れられるようにするのが目的で、自治体ごとに開く集合研修でPCの使い方などを学ぶ。

 教科書は現職教師らが作成。ITを授業に取り入れることのメリットから、PCなどIT機器の使い方、指導方法までを初歩から解説している。ただ技術を紹介するのではなく、実際の授業でどう活かすかを詳述しているのが特徴だ。

 例えば授業で役立ちそうな画像をインターネットで収集し、プロジェクターで生徒に見せて、生徒の注意を授業に惹きつける例を紹介したり、授業導入時の“問いかけ”のスライドをPowerPointで作る方法を解説するなど、授業の流れに沿った実践的な内容になっている。

 「授業でのIT活用法を解説する本はほとんどなく、多くの先生はビジネス向けのPCマニュアル本に頼らざるをえない。しかし内容が授業や校務とはかけ離れているため、挫折する先生も多い」(ICT事務局員でマイクロソフトの法務・政策企画統括本部政策企画本部事業開発部の熊野和久部長)。

 同教科書では授業に沿ったITの使い方を学べるため、受講した教員からの評判は高いという。同協議会の研修に参加すれば入手できるが、一般販売はしていない。

PCが得意な教員への負担集中の解消にも

 「PCが得意な教員は各校に数人しかおらず、負担が大きい」(吉田さん)。“たまたま詳しかった”だけでPC関連機器の整備まで任される。不具合や故障時には頼られ、自分の仕事時間を削られるケースもある。「学校のIT担当教員になるのは“はずれくじ”を引いたと捉えられ、なり手がなかなかいない」(吉田さん)。

 全教員がPCをある程度使いこなせるようになれば、こういった現状も解消するだろうと同協議会では期待している。

 ITスキルアップ講座も、講座を受けた少数の教員だけに負担が集中することを避けるため、各学校からできるだけ多くの教員が参加することを推奨している。「講座に参加した教員に、学校の“ITリーダー”になってもらい、校内の全教員のレベルを引き上げてもらいたい」(熊野部長)。

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