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スパム退治に向けて、世界各国が一致団結

» 2004年07月13日 15時59分 公開
[IDG Japan]
IDG

 国際電気通信連合(ITU)が先週開催したスパム対策をめぐる会合では、不要な商用メールの激しい洪水を完全にせき止めるまではいかなくても、せめて滴程度にまで抑えるべく、世界各国のネット規制機関が一致団結して取り組む方針が確認された。

 ジュネーブで7月9日まで3日間にわたり開催されたこの会合は、スパム問題の解消に向けて、初めて世界各国の政府代表者を集めて開かれたもの。約60カ国から参加した政府代表者らは、不要な商用メールやフィッシング、オンライン詐欺など、ネットワーク経済を蝕むことになりかねない深刻な脅威を抑制するためには、適切な法律を制定し、適切な技術を採用する必要があるとの考えで合意した。

 オーストラリア通信庁の長官代理で、ITU主催の会合で議長を務めたロバート・ホートン氏は次のように語っている。「スパムやインターネットの濫用と戦うべく、われわれは世界規模で行動を起こす決意だ。これは、企業や消費者に年間250億ドルものコストを強いている問題の解決に向けた重要なスタートだ。こうした問題が銀行業界のオンライン業務を破壊するようなことになれば、損害は何兆ドルにも膨らみかねない」

 ITUによれば、現在メール全体の約80%がスパムと推定されている。ITUは国連の付属機関だ。

 ホートン氏は電話取材において、最初の主要なステップは、すべての国で何かしらのスパム対策法を制定し、監督機関を設けることだと語った。「これを世界中で達成できれば、将来の世界規模の覚書(MOU)の基盤となるだろう」と同氏。

 同氏によれば、既にスパム対策法を制定しているのは、主に英語圏の先進国を中心とするわずか約35カ国程度という。

 ただしホートン氏によれば、スパムのほか、スパイウェアのインストールやウイルスの感染、フィッシングによる個人情報の収集といったメールを介した犯罪行為の流れをせき止めることに対しては、アフリカも含め、ほとんどすべての参加国が関心を示している。フィッシングとは、合法な電子商取引サイトを装い、そのじつ犯罪者が管理しているWebサイトへ、メールを介してユーザーを誘導するオンライン詐欺の手法だ。「世界の最も貧しい国々でも、インターネットはより良い生活へのパスポートとして捉えられている。インターネットは、社会、経済、教育の機会をもたらすからだ。こうした国々では、スパムが深刻な負担となりつつある。この問題を先進国と同じようなレベルで管理するための経済的な余裕がないからだ」と同氏は語っている。

 ホートン氏によれば、今回の会合への出席者からは、ITUの開発部門に対して、さまざまなケーススタディから法律制定のひな型となる草案を作るのに協力してほしいとの要請があったという。「どのような法律が最善かはわれわれにも分からないが、それは大きな問題ではない。何かしらの措置を講じてさえいればいい。それがスタートであり、それが重要な点だ。どのような規制が最善かは、そのうち自ずと分かってくるだろう」と同氏。

 規制作業の協調は相補的な取り組みとなりそうだ。ITUはすべての開発途上国を含め、189カ国との関係を維持しているが、ホートン氏によれば、経済協力開発機構(OECD)は法制化に関する留意点をめぐり、既に「有用なリソース資料」を集め、ツールキットをまとめているという。

 スパムと戦う上でもう1つ重要となるステップは、スパム対策のための技術的な手段を導入することだ。ホートン氏は、Microsoftの会長兼チーフソフトウェアアーキテクトであるビル・ゲイツ氏の最近の発言に言及した。その発言とは、広く用いられている同社のメール技術に2年以内にスパムフィルターなどのセキュリティ機能を含めるというもの。さらにホートン氏は、そのほかのITベンダー各社によるスパム対策の取り組みにも言及した。

 ホートン氏は、規制インフラも同じく2年以内に配備すべきであり、そうすることで、技術面での機能強化とともに、「情報化時代の根本的な脅威を根絶する」ための基盤が整うことになると語っている。

 だがスパム対策では、そのほかにもいくつか側面的な手段が必要になると同氏は続けている。例えば、新しいメールサービスを提供するインターネットサービスプロバイダー(ISP)や携帯電話会社など業界各社による支持、個人情報を求めるメールメッセージに含まれるURLをクリックしないようユーザーに徹底させるための教育、政府や業界から消費者、企業、スパム対策団体など、あらゆるレベルにおける国際的な協力などだ。

 「ISPには倫理的な行動規範で団結してもらう必要がある。国際的なネットワークにおいて管理者の役割を担っているからには、ISPにはそれができるはずだ。彼らの協力が不可欠だ。とは言え、彼らは協力しないほど愚かではないはずだ。何しろこの問題は、例えば銀行システムの破綻などにもつながりかねない。銀行のケーススタディは今や、インターネットベースの手法に非常に大きく依存している」とホートン氏は語っている。

 国際的な協力に関して、ホートン氏はグローバルな枠組みの開発において、ITUやOECDだけでなく、消費者保護および執行のための国際ネットワーク(ICPEN)やInternet Societyなど、そのほか数多くの国際団体の協力の必要性を訴えている。

 ITUのスパム対策会合で各国の政府代表者が推奨した手段は今後、報告書にまとめられ、2005年11月にチュニジアのチュニスで開催される第2回世界情報社会サミット(WSIS)に向けて準備を進めるスパム作業部会に送られる。

 またホートン氏は第2回WSISに先立ち、2005年7月にITUや世界各国のネット規制機関だけでなく、OECDやICPENといった国際組織の代表者らを集めて検討会議を開く方針を示している。

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