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「IPO? それでみんな幸せになりますか?」──ネットの進化を支える“新世代”ITは、いま

» 2004年08月23日 15時33分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 「ネットベンチャーといえば、ネットでひと山当てて儲けようという企業がほとんどだったのだが……時代は変わったのかもしれない」――「はてな」の近藤淳也社長と会った40代の編集者はつぶやいた。

 はてなのサービスのいくつかは、「できるだけたくさんのユーザーに使ってもらいたいから」(はてなの近藤社長)という理由で、無料。ぎりぎりの採算で運営を続ける。

ブログ(Blog)サービス「はてなダイアリー」。基本機能は無料だ

 ネット界に最近飛び込んだ記者には、過去の雰囲気は分からない。しかし、今年上半期、記者がインタビューしたネットサービス運営者の多くが、お金ではない何かを追いかけていたのは確かだ。

 サラリーマンが私財を投じて作っている、ソーシャルネットワーキングサイト「GREE」。インターネットの面白さを見せる“ショールーム”として、儲けをある程度、度外視して運営されているニフティのコンテンツサイト「デイリーポータルZ」。そして、はてな。儲からなくてもいいから、ネットを楽しく、便利なものにしようという思いが、この3つに共通している。

 「ネットバブルの頃、ネットが何もかもを便利にすると言われていた。でも、僕たちの生活は何も変わらなかった。当時のネットベンチャーは、儲けようとするばかりで、ネットを本気で便利にしようなんて、考えてなかったから」と言うはてなの近藤社長は、「世の中を本当に便利にするものを作りたい」と、はてなの各サービスをスタートした。

 PC 1台とプログラミングの知識さえあれば、アイデアを形にできるのがインターネット。「自分が欲しいものを自分で作る。それが楽しいから、儲からなくても続けられる」と、GREEの田中さんは言う。

現実社会の友人と連絡を取りやすくするためのソーシャルネットワーキングサイト「GREE」

 ネットメディアならあって当然と考えられていた広告を、極力載せないデイリーポータルZ。「ユーザーが楽しめるものしか載せたくない」(ニフティ・サービス事業部サービス事業推進部の林雄司さん)という純粋な思いが、サイトを支える。

日常のちょっと気になることを、徹底的に研究するコンテンツサイト「デイリーポータルZ」

「きらきらしたものや、先端ぶったものは、うんざり」

 彼らに共通しているのは、もうひとつある。サービスがテキストと静止画ベースで、音声や派手な動画はほとんど使っていないということだ。

 「以前勤めていた古株のネット企業では、次世代ネットサービスは音楽だ、動画だと言われていたけれど、それは時代錯誤。世代感が違う」(GREEの田中さん)。

 「上の世代には、新聞→ラジオ→TVという流れの成功体験が刷り込まれているから、ネットでも同じ流れになると思っている。確かに、Webサイトから音楽が流れたり、動画が再生できたらすごいとは思うけど、それで人が幸せになったり、人生が豊かになったりはしない」(田中さん)。

 インターネットが始まって10年以上経った今でも、重要なのはテキストだと田中さんは言う。「GoogleやAmazon、e-bayといった、ネット上で最も使われているサービスはどれもテキストベース」(田中さん)。

 とっつきにくい新技術よりも、身近で古い技術の方がたくさんの人に受け入れられやすい。今やユーザー数10万を超える「はてな」の出発点もここにあった。

 「“スペースでアンド検索”など、検索専用の技術を新しく覚えなくても、人間もともと備わっている文章で質問する能力を使ってネットを検索できる仕組みがあっていい」という発想から生まれたQアンドAサービス「人力検索 はてな」。近藤社長がネット界の先端ではなく、ネット初心者の父親の傍にいたからこそ考えついたサービスだった。

 「先進的な情報はあまりいらない。今、どんな技術があるのかさえ分かっていれば、それを使って何ができるか、一歩引いたところで考えればいい」(近藤社長)。

人力検索サイト はてな。文章で質問を入力すると、他のユーザーが答えてくれる

 デイリーポータルZの林さんは、「かっこいいサイトや、キラキラしたもの、先端ぶったものはウンザリ」と言う。「ニュースにならなくても、皆が気になることって、あると思う」と、新しくもかっこよくもないけれど、誰もがちょっと気になること――朝起きてから出かけるまで、みんな何分くらいかかっているのかとか、バナナで釘が打てるのか、など――を研究し、テキストと静止画で表現する。

 GREEもはてなもデイリーポータルZも、先端の一部の人ではなく、ネットを使う人みんなの毎日の生活を、楽しく、便利にしたいという強い思いから生まれた。「インターネットは、人が本来持っている力を飛躍的に伸ばせる可能性を持った未完成の道具」(近藤社長)。ネット上の“発明家”たちが、この道具を日々、進化させ続ける。

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