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「Windowsもほう助になりかねない」──検察側と弁護側が全面対決

» 2004年09月01日 20時34分 公開
[小林伸也,ITmedia]

 「Winnyの開発自体が違法だと考えているのか。検察は釈明せよ」「その必要はない」──9月1日、Winny開発者が罪に問われた裁判の初公判は、検察側と弁護側の全面対決となった(関連記事1)(関連記事2)

「著作権侵害の増長を意図し、確信犯的」

 起訴状によると、開発者は、昨年11月に逮捕された2人による公衆送信権の侵害行為に「先立ち、Winnyを使う不特定多数による著作権侵害を認識しながら、これを認容し、WinnyをWebサイトに公開し、不特定多数にダウンロードできるようにした」。

 検察側は冒頭陳述で、Winnyは従来のP2Pソフトに比べ効率的にファイルの送受信ができる上、ユーザーの匿名性が高く、著作権侵害行為がまん延する結果となったと指摘した。

 開発者がWinnyが著作権侵害行為を容易にする認識があった証拠として、

 (1)「2ちゃんねる」とWinny配布サイトで、既存のコンテンツビジネスモデルに対する不満を表明していた

 (2)匿名性を求めるユーザーからの要望を受けながら、238回のバージョンアップを行っていた

 (3)人気があるファイルをアップロードフォルダに置くと、同時ダウンロード数の上限が上がる機能などが搭載されていた

 (4)開発者は、アップロード機能がなく同時ダウンロード数が20の専用Winnyを使っており、アニメやゲームなど大量のデータをHDDに保存していた

 (5)Readmeファイルで著作権侵害をしないよう呼び掛けているが、これは侵害を前提とした形式的なもの

 (6)Winny開発者であることを明かした知人から「気を付けてね」というメールを受け取り、「何をやったらまずいか知っている。『悪貨は良貨を駆逐する』の通り、悪用できるソフトは宣伝しなくてもすぐに広まりますね」と返事をしている

 ──などを挙げ、「著作権法違反行為を増長させることを意図し、確信犯的に行っていた」と指弾した。

「『可能性の認識』だけでほう助が成立するか」

 これに対し弁護側は公訴自体の棄却か、無罪判決を求めた。まず「公訴事実、冒頭陳述とも、Winnyの開発・公開自体を違法と見なしているとしか考えられない」と指摘。だがP2Pソフトの開発・公開という行為そのものを罰する法的根拠はなく、罪刑法定主義(法律で定められていない限り、その行為を犯罪として刑罰を科すことことはできないという刑法の原理)に根本的に反している、と主張。検察は違法とする根拠がないので、ほう助というあいまいになりがちな構成要件を持ち出したのでは、と疑問を投げかけた。

 弁護側は「あくまでほう助を主張するなら、どの点がほう助になるのか検察は訴因で明らかにせよ。そうでなければ弁護側は防御しようがない」と迫ったが、検察側はあくまで訴因は十分として突っぱねた。

 弁護側は冒頭陳述で、スライドを使いながらP2Pシステムがクライアント/サーバシステムに比べ優れた点を説明。Winnyの手本になったとされるFreenetの効率の悪さに気付き、技術的な見地からWinnyを開発し、多数に使って検証してもらうために公開した、と説明した。

 「Winnyは中立な道具」。こうしたソフトの開発・公開が違法行為を容易にする可能性がある、という理由で開発者を罰するのであれば、ファイルのアップロードが可能なFTPクライアントソフトや、ファイルの複製が可能なWindows、人身事故や速度違反を起こす可能性がある自動車などもほう助になりかねないと主張。その上で「技術開発における犯罪の予測は厳格に適用されるべき。Winnyを使ってユーザーが著作権侵害行為を行う可能性があると開発者が仮に認識していたとしても、これは『包丁で人が殺せる』と考えるのと同じ程度のことだ」とした。

 ひんぱんに行われたバージョンアップについては「ソフト開発者であれば改良するのは当然だ。改良は不具合の解消などが目的であって、著作権侵害のためではない」と反論した。

 弁護側は「今回の件には、検察側のITやインターネットに対する根本的な無理解がある。立件は、技術開発を萎縮させる特異な行いであり、国益を損なう」と訴えた。

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