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ついに始まったMSのデジタルメディア大侵攻

» 2004年09月03日 19時48分 公開
[IDG Japan]
IDG

 米Microsoftが今週立ち上げた「Portable Media Center」(PMC)プラットフォームを携えて、エンターテインメント市場に大きく進出してきた。まずはCreative Labsのデバイスに搭載されて登場する同プラットフォームは、携帯デバイスでのオーディオ・ビデオの再生と静止画像の閲覧を可能にする。

 同じく今週、Microsoftは、Appleの人気音楽ストアiTunesに対抗する待望のMSN音楽ストア「MSN Music」のβ版を立ち上げるとともに、「Windows Media Player 10」(WMP10)を正式リリースした(関連記事参照)

 PMCは、ユーザーインタフェースなどの点で同社のPC向け「Windows Media Center OS」と非常によく似ているが、ディスプレイの小さなデバイス向けに設計されている。PMC搭載デバイスは、メディアファイルを保管・再生するためのHDDを備え、Microsoftのハードウェアパートナーが設計・製造に当たる。

 「これはまったく新しいタイプのデバイスだ。従来のオーディオプレーヤーに代わるものとして位置付けられているのではない。これからは人々がオーディオプレーヤーを携えることが当たり前になる」とMicrosoftのPMC部門リードプロダクトマネジャー、ジェームズ・バーナード氏は話す。

 同社によれば、PMC搭載デバイスはすべて3.5インチ以上のディスプレイを備える。さらにMicrosoftの仕様に準拠するデバイスは、20G〜40GバイトのHDDを装備し、シンプルですっきりしたデザインでなくてはならない。長編映画を2本連続で再生できるだけのバッテリー駆動時間を提供することも求められる。

 Creativeの「Zen Portable Media Center」が、PMC搭載デバイスとして発売される第1弾の製品となる。

 Zenは20GバイトのHDDを搭載し、価格は499ドル。9月2日に全米のBest Buyショップで販売開始された。Amazonでは7月からZenの予約注文を受け付けている(7月10日の記事参照)。SamsungとiRiverは、そのライバルとなるPMC搭載デバイスを今秋中に発売する予定。Samsungの「YH-999」は20GバイトのHDDを搭載し、価格は499ドル。iRiverは20GバイトHDD搭載モデルと40Gバイトモデルをそれぞれ499ドル、549ドルで販売する。これらのデバイスはすべてクリスマスシーズンに間に合うように提供されると、バーナード氏は語っている。

 PMCはUSB 2.0を介してPCに接続し、Windows XPとMedia Center PCに対応する。PCのHDDに保管されているオーディオ、ビデオ、静止画像はすべてPMCデバイスに(ファイルを対応フォーマットに変換した後)転送できる。さらにバーナード氏によれば、2時間の映画を3分足らずで転送可能だという。TVチューナーカードの付いたMedia Center PCまたはWindows XP搭載PCを持っているユーザーなら、好きなTV番組を録画してPMCデバイスに転送し、自宅から離れた場所で視聴できる。

 PMCはまた、複合ジャックを介してTVにつなぐことも可能だ。PMCデバイスにコンテンツを直接録画することはできないが、PMCデバイスに格納されたコンテンツをTVで視聴することはできる。例えば、デジタル画像で作成したスライドショーをTVに表示したり、自宅のPCからPMCデバイスに転送しておいた映画を、宿泊先のホテルのTVで楽しむことができる。

 Microsoftは、PMCデバイス向けコンテンツの提供でCinemaNowと米大リーグの公式サイトMLB.comと提携している。CinemaNowは200本の映画を、MLB.comは同デバイスで鑑賞可能な野球のハイライトや特集をダウンロード提供する。いずれも有料サービスとなる。

 PMCは、出張の多いビジネスマンや通勤・通学者を引き付けるだろうとMicrosoftは語る。バーナード氏は、「これはエンターテインメントをインターネットから切り離し、どこへでも持って行けるものだ」としている。

 もっとも、これらのデバイスにもある程度の限界がある。「PMCデバイスは、腕にぶら下げてジョギングするというよりも、仕事帰りの電車の中で使うものだ」と同氏。

 PMCデバイスでオーディオコンテンツを再生したいと考えているユーザーには、MSN Musicストアという新しい選択肢がある。現在このサービスのβ版が提供されている。

 このサービスはWebベースであるため、コンテンツにアクセスしたり、楽曲を購入するために特別なソフトをダウンロードする必要はなく、WMP 7.1以上の再生ツールがあればアクセスできる。

 MSN Music立ち上げ時の取り扱い楽曲数は50万曲あまり、ユーザーはこれらを自分のPCに直接ダウンロードできる。MSN Entertainmentの上級ディレクター、ロブ・ベネット氏は、秋までには最低100万曲がダウンロード提供可能になるとしている。

 MSN Musicのβ版は、グラフィックスを最低限にし、検索とブラウズオプションに重点を置いたシンプルな外観になっている。「MSN Musicは、サインアップ、好きな楽曲の検索、ダウンロード、再生を極めて容易にできるようになっている」とベネット氏。

 各楽曲には無料の短いプレビューが含まれており、最大256ビットのWindows Media Audio(WMA)コーデックでエンコードされている。ベネット氏によれば、WMAは128ビットのAACコーデックを採用しているiTunesサービスよりも高品質なオーディオをサポートするという。

 MSN Musicサービスは、会費不要でソフトを購入する必要もない。Windows 98 SE以上のOSとInternet Explorer(IE)5.0以上のブラウザを走らせているPCがあれば利用できる。楽曲の料金は平均で1曲1ドル、アルバムは平均10ドルと、ほかのデジタル音楽サービスの料金体系とほぼ互角。楽曲はディスクに焼き付けたり、デジタルオーディオプレーヤに転送することができる。

 ただしMacintoshおよびiPodユーザーはMSN Musicサービスを利用できない。 このサービスはWindows上でのみ機能し、また同サービスからダウンロードした楽曲は、正規ではない手段を使わなければiPodでは再生できない。

 iTunesサービスはAACコーデックのみを採用しており、デジタル音楽ファイルをiPodプレーヤーに転送する際に、WMPに保管されている音楽(保護がかかっていないWMAファイル)をAACフォーマットに変換する。一方、MSN MusicからダウンロードされたWMAファイルにはデジタル著作権管理(DRM)技術が組み込まれており、これらを直接AACに変換することはできない。

 これを可能にする非正規の手段として、MSN MusicファイルをCDに焼き付けて楽曲とDRMを技術を切り離す方法などがある。焼き付けたCDから楽曲を抜き出してiPodに転送すれば良い。

 MSN Musicからダウンロードした楽曲の利用制限は、iTunesと似ている。ダウンロードした楽曲は1度に最大5台のPCに保管可能で、プレイリストのCDへの焼き付けは最高7回まで、それ以降は再度CDに焼き付ける前にプレイリストを変更しなければならない。こうした制限措置には、大量コピーを阻止する狙いがある。

 MSNの会員制ラジオサービス「Radio Plus」(月額5ドルまたは年額40ドル)がアップデートされ、CMのない地上波ラジオ番組が提供されるようになった。公開されているFMラジオプレイリスト情報を利用して、MSNは数千の人気ラジオ番組のCMなしバージョンを作成するとベネット氏は説明している。

 このほか、音楽レビュー、音楽関連の編集コンテンツ、上位のアルバム・ダウンロード楽曲のRSSフィードなどの強化が施された。

Windows Media Player 10

 新たに立ち上げられたWMP10からは、MSN Musicサービスと多くの競合サービスに直接アクセスできる。WMP10がデジタル世界を支配することはまずないだろうが、Microsoftは、競合音楽プレーヤーに苦戦を強いるに十分なほどの新しく使いやすい機能を盛り込んでいる。

 WMP10は、前のバージョンのWMP9を完全に刷新するもので、大規模な消費者とフォーカスグループによるテスト結果を反映させた、シンプルでまとまりのあるインタフェースとなっている。

 WMP10の各種の機能は、見やすいツールバーのドロップダウンメニューから手早くアクセスできる。メニューはデフォルト設定でオフになっており、すっきりした外観だ。マウスを右クリックすればメニューをオンにできる。

 購入した音楽・ビデオ、CDからリッピングした音楽、録画したTV番組を保管するユーザーライブラリの整理機能はWindows Explorerと似ているが、こちらの方がずっと簡単だ。タイトル、アーティスト、アルバム名による検索が可能なほか、自分で付けた評価ランク別の検索もできる。フォルダとして表示されるプレイリストに、タイトルをドラッグ&ドロップすることで容易にプレイリストを作成できる。

 またユーザーは、CDの楽曲をWMAまたはMP3フォーマットでコピーし、それらを携帯音楽プレーヤーにドラッグ&ドロップしたり、CDに焼き付けることができる。WMP10は幅広い種類の携帯プレーヤーを認識し(各種プレーヤーに必要なドライバが統合されている)、シームレスな同期を約束する。

 同ソフトはNapsterやMSN Musicを含むさまざまなオンライン音楽やビデオストアを認識し、これらと連係する。これらの音楽ストアからダウンロードされた楽曲は、自動的にユーザーのライブラリに保管・整理される。

 WMP10には、「Janus」と呼ばれるMicrosoftの新たなDRMソフトが統合されている。MicrosoftのDMD部門リードプロダクトマネジャー、エリン・カレン氏は、これまで会員制音楽サービスに入会しているユーザーは、自分の音楽コレクションに自分のPCからしかアクセスできなかったと語る。Janusでは、集めたコンテンツをPMCデバイスやMP3プレーヤーなどほかの携帯デバイスに転送できる。会員契約が切れた場合は、この技術によってコンテンツは自動的に利用不可能となる。

 カレン氏によれば、Napsterは最初にJanusを採用する音楽サービスとなり、また同技術は最初にPMCデバイスに採用される。今後このDRM技術の採用は、既存デバイスや将来の携帯デバイスにも拡大していくだろうと同氏は言い添えた。

 WMP10では、ファイルを移動するのと同じくらいシームレスに、携帯プレーヤーやUSBメモリキーといった大容量ストレージデバイスと同期化できる。また高品質なサウンドとビデオも提供し、ビデオ解像度は最大1920×108、オーディオは7.1チャンネルサウンドをサポートする。

 なおMicrosoftは、向こう数カ月間にさらなるデジタルエンターテインメント関連の発表を行うと約束している。

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