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HP、PC部門の行方は不透明

» 2005年02月10日 21時28分 公開
[IDG Japan]
IDG

 カーリー・フィオリーナ氏が経営トップの地位を去ることになったのに伴い、Hewlett-Packard(HP)に残る経営幹部らは、同社の今後の運営方針を決定しなければならない。アナリストらによると、HPは利益率の低いビジネスや、顧客獲得チャンスの喪失といった苦難の中にあるという。

 HPが2002年に行ったCompaq Computerの買収をめぐっては、HPの古参幹部および株主がPCビジネスのような低成長・低マージンの事業を手がけることに難色を示したことで激しい議論が巻き起こった。

 ここ数年、PC市場の成長率は10%をやや上回るレベルを推移しているが、IDCおよびGartnerでは、2005年から2006年には成長率がこのレベルを下回ると予想している。HPにとって最大の顧客であるコンシューマーの新規購入ペースが落ち込むとみられるからだ。

 フィオリーナ氏は、CompaqのPC事業を取得し、HPの実質市場シェアをDellと肩を並べるまでに高めた結果、同社は企業ユーザーに総合的なハードウェアパッケージを販売することにより、利益率の高いサーバとサービスの販売を拡大できたと考えている。

 同氏は2001年と2002年を通じて、「幾つかのIT分野の市場シェアで1位ないし2位につけている企業が、包括的な製品ポートフォリオを顧客に提供できるようになった」と主張し続けた。

 しかしCompaqの買収が完了して3年近くになる今日でも、HPのPC事業はほとんど利益を上げていないのが実情だ。

 カリフォルニア州パロアルトに本社を構えるHPの第3会計四半期、同社のPCビジネスは65億ドルの売り上げを記録したものの、利益はわずか7800万ドルにとどまった。この数字でさえ、過去4年間で最高の実績なのである。対照的に、同社のプリンタ事業は同じ売り上げでありながら11億ドルの利益を上げた。

 フィオリーナ氏は1月、プリンタ事業部とPC事業部を統合し、プリンタ部門のトップだったバイヨメッシュ・ジョシ氏を責任者に据えた(1月17日の記事参照)。これは、高い利益率を実現していたジョシ氏の経営手腕をPC部門でも発揮させることを狙った動きだとみられた。

 Merrill Lynchの財務アナリスト、スティーブン・ミラノビッチ氏は、HPの取締役会はPC/プリンタ統合事業部を分社化すべきだと提言してきた。同氏は2月9日に発表した調査報告書の中でもこの提言を繰り返し、「PC/プリンタ事業の分離はすぐには無理だろうが、フィオリーナ氏の辞任でこういった動きが進む可能性が高まった」と指摘している。

 ロンドンの調査会社Ovumも2月9日、HPはPC事業を切り離し、サーバやサービスといった戦略的なビジネスにリソースを振り向けるべきだと提言した。またGartnerは昨年12月、IBMがPC事業をLenovo Groupに売却すると発表する直前に、「大手IT企業はPC市場に嫌気がさすだろう」と予測した報告書を公表した。

 しかし、PCやプリンタ、サーバ、ストレージ、ネットワーキング機器などをすべて1社から調達できるというのは、HPの顧客にとってメリットであると考えるアナリストもいる。

 バージニア州レストンにあるNPD Techworldで業界分析ディレクター、スティーブン・ベーカー氏は、「PCビジネスで金を儲ける必要はない」と話す。

 「PCはコンピュータ業界におけるツナ缶のようなものだ。つまり、顧客を獲得するための特売品なのだ」とベーカー氏。

 ベーカー氏によると、PC事業部を手放さず、新しい経営陣の下でブランド力を高め、サーバおよびPCの販売チームが連携して販売拡大を目指すのがHPにとって得策だという。

 市場シェアで上位3社に入っている残りの2社のPCベンダーは、この戦略に対してそれぞれ異なる考えを抱いている。

 IBMは、利益率の高いソフトウェアおよびサービスビジネスに集中するためにPC事業を切り離した。だがこの決定は、IBMのPowerプロセッサ搭載サーバと一緒に同社の「ThinkPad」ノートPCを購入したいと考えていた顧客の反発も招いた。

 一方Dellは、企業ユーザーにPCを直販するという同社が伝統的に得意とする手法をサーバ、ストレージ、ネットワーキングおよびプリンタ事業でも採用し、急速に業績を伸ばしている。

 「これらすべての製品をCompaqの買収を通じて手に入れたことは、フィオリーナ氏の実績として評価されるが、合併後の新生HPは同氏のリーダーシップの下で、両社の優秀な技術者と営業担当者の専門知識を結合して活用することができなかった」とニューヨーク州シーフォードにあるEnvisioneering Groupのリサーチディレクター、リチャード・ドアティ氏は指摘する。

 「これらの事業部は新しい経営陣の下で競争力を高め、DellとIBMに警戒心を抱かせるとともに、顧客を喜ばせるだろう」とドアティ氏は話す。

 ベーカー氏によると、HPの分割の妨げとなる最大の障害の1つとなりそうなのは、PC/プリンタ事業部の買い手が見当たらないことだ。

 「分社化という方針は理にかなっているかもしれないが、HPから独立したPCビジネスが独力で事業基盤を強固にしたり利益率を高めるのは難しい」とベーカー氏は話す。

 しかしいずれにせよ、HPの新経営陣は、フィオリーナ氏が当初、Compaqとの合併で目指していたように、広範なHP製品群によって全社的に利益をもたらすという目標を達成する手段を考え出すか、さもなくば、この3年間にわたる同社のドタバタ劇にうんざりしている株主に利益を還元するために別の方策を見つけなくてはならないだろう。

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