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元米下院議長ギングリッチ氏、電子カルテへの迅速な移行を要請

» 2005年05月26日 16時23分 公開
[IDG Japan]
IDG

 米国の病院、医師、保険会社、政府は電子カルテへの移行を迅速に進めないことで、多くの命を危険にさらしている。米下院の元議長ニュート・ギングリッチ氏は5月25日、そう語った。

 現在Center for Health Transformation(CHT)と呼ばれる医療業界の権利擁護団体を運営しているギングリッチ氏は、メリーランド州ボルティモアで開かれた電子データ交換のワークグループ、WEDI(Workgroup for Electronic Data Interchange)の年次カンファレンスで、参加者らに、医療界の水準を高め、電子カルテを推進するよう促した。電子カルテは、ギングリッチ氏が「21世紀のインテリジェントな医療システム」と呼ぶ構想の実現に向けた最初のステップとなる。この構想は、米国のすべての居住者に対して電子カルテと即席の診断ツールを提供するというもの。

 WEDIは、電子商取引を介した高度医療を推進する業界団体。ギングリッチ氏は、保健福祉省の元長官トミー・トンプソン氏とともに、WEDIが年に1回、イノベーターに贈っている賞を受賞している。共和党員のギングリッチ氏は今月、かつての政敵であるヒラリー・クリントン上院議員(ニューヨーク州選出・民主党)に賛同し、米国での電子カルテの利用促進を目指した議会法案の支持に回っている。ギングリッチ氏とクリントン氏はどちらも、2008年の大統領選の候補と目されている。

 2004年1月には、ジョージ・ブッシュ米大統領も電子カルテ標準の採用を要請しているが、ギングリッチ氏によれば、そうした採用の動きは鈍いという。

 同氏によれば、21世紀のインテリジェントな医療システムは米国民が自由意志でアクセスできるものとなり、それには健康上のリスクを個々人に警告するDNAテストも含まれる見通し。またこのシステムには家庭用の診察キットも含まれ、血液検査用の器具を使えば、個人が各自で血液検査を行い、ほとんど即座に診断結果や医師による診察を促す警告を入手できるようになる。

 「私たちは切迫感を持たなければいけない。そうしたデータを必要としている人たちにデータを提供していないがために、毎日、人が亡くなっている」とギングリッチ氏はWEDIの出席者に訴えた。

 インターネットユーザーはオンラインで航空券を即座に購入でき、またドライバーも非接触カードを使ってガソリンを即座に購入できるのに、米国の医療業界は依然として、患者の治療履歴の追跡を紙ベースのカルテに依存している、と同氏。さらに同氏は電子取引について「医療以外の分野では当たり前になっている」と語り、次のように続けている。「私たちは何も、医療界に革新的なことを求めているのではなく、周囲に追いつくよう求めているだけだ。遠い未来のことを話しているのではなく、医療に関する最近の状況について話している」

 議員在任中に航空委員会の委員を務めていたギングリッチ氏は、医療業界の標準を航空業界の安全基準と比較して、次のように語っている。「航空業界では、最優良事例が最低基準だ。一方、医療の世界では、毎年推定で8000人の米国市民が投薬ミスで亡くなっている。医療業界の多くはそうした死をそのまま受け止めているが、電子カルテによって相容れない治療や処置をチェックできるようになれば、そのほかの医療ミスによる何千件、何万件もの死亡事故とともに、投薬ミスによる死亡事故も、大幅に削減できるだろう」と同氏。

 「航空業界で8000人もの命が失われれば、それは重大局面だ」と同氏は続けている。

 またギングリッチ氏は、肥満や糖尿病の予防策として、高校生に週5日間の体育の授業を義務付ける連邦法の制定を求めた。さらに同氏は、米国民全員を保険に入らせるための対策として、税額控除やメディケードプログラム(低所得者や身障者のための医療扶助制度)のバウチャーを要求している。

 共和党議員は、1990年代初頭に当時ファーストレディだったクリントン議員が推進した全国規模の医療計画をくじいている。だがギングリッチ氏は25日、米国では100%の保険加入が必要だと語った。同氏によれば、米国の保険システムは、保険会社が最も健康な人を選べるようになっており「ひどくばかげている」という。

 ギングリッチ氏によれば、政府の医療サービスを電子カルテに切り替えるための取り組みは、抵抗にあっている。同氏がメディケア(米政府の医療保障制度)の担当者に、定年退職後の人たち向けの政府による医療保障プログラムを、定年間近のベビーブーム世代に備えて、電子カルテに切り替えるよう求めたところ、担当者はなかなか行動に移そうとしなかったという。ベビーブーム世代にとって、紙の医療カルテは理に適っていない。そうした世代の多くは、定年後に旅行するだろうし、定年後の生活が20〜30年は続くことになるからだ。

 政府高官や一部の保険会社は、電子カルテのような新技術への小規模な先行投資がもたらす長期的なメリットをなかなか理解できないようだ、とギングリッチ氏は指摘している。電子カルテに切り替えれば、ベビーブーム世代の何百万人もの紙のカルテを20年間にわたってFAXしたり、更新したりといった作業にかかる、さらに多くのコストを節約できる、と同氏。

 WEDIカンファレンスでは、ギングリッチ氏が電子カルテのメリットについて語る一方で、そのほかの講演者は紙からの移行に伴う問題点を取り上げた。カリフォルニア州医師会のプライバシー法コンサルタント、デビッド・ギンズバーグ氏は、多くの病院や診療所には依然として、電子カルテに必要となる情報セキュリティや物理的なセキュリティ、プライバシー保護のための対策が欠けていると指摘している。

 「裏口は常に開いたままで、表玄関の鍵もいい加減では、管理も何もない。誰かが勝手にコンピュータを持ち去ったとしたらどうなるだろう?」と同氏。

 またギンズバーグ氏は、医療機関に対し、紙カルテからの切り替えに何万ドル、何十万ドルものお金をつぎ込む前に、各種の電子カルテシステムを比較し、テストすべきだと忠告している。同氏によれば、電子カルテにはまだ標準プラットフォームが存在せず、なかには医師の仕事の手順の大幅な変更を強いるパッケージもあるという。

 「医師に、これまでの仕事の流れを変えるよう求めていることになる。それは簡単なことではない」とギンズバーグ氏は語っている。

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