ITmedia NEWS > ネットの話題 >

「のまネコ」「やわらか戦車」に見るCGMビジネスのリスクとチャンスネット時代の新潮流――CGMとは(4)(2/2 ページ)

» 2006年08月18日 09時20分 公開
[伊地知晋一,ITmedia]
前のページへ 1|2       

 ここで注目すべき点は、モナーが、

1 マッシュアップ的に生まれたキャラクター(コンテンツ)であること。

  • リスク:著作権者が分からないので、利用にあたって誰に許可を得たらよいかわからない。
  • チャンス:マッシュアップに参加したユーザーは、キャラクターに対するロイヤリティーが非常に高い(固定ファンがいる)。

2 CGMから発生したメジャーコンテンツであること。

  • リスク:ロイヤリティーが高いユーザーが多いため、取り扱い方を間違えると大クレームとなる可能性がある
  • チャンス:ネットで人気のキャラクターは、リアル世界でも人気を得る可能性が高い

――という点です。

 これらにより、CGMから生まれたメジャーコンテンツには、ロイヤリティーの高い固定ファンが存在し、リアルな媒体や商品に転用した場合、大きなビジネスチャンスがあると言えます。

 ただ、著作権者があいまいな場合は著作権処理に困るでしょうし、ロイヤリティーの高いユーザーから大きなクレームを呼ぶ危険性もあります。これらの問題を解決する手続きを踏み、CGMプラットフォーム上で人気コンテンツを生み出すことができたとすれば、そこには新しいコンテンツの作られ方の、1つの道筋が示されるかもしれません。

CGMをリスクなしにビジネス化するには

 ライブドアでは「ネットアニメ」いう、個人が作成したアニメーションを投稿してもらうサイトを運営しています。基本的にオリジナル作品で、個人がPCで作成し、ネットで初めて発表されたものが投稿の際の条件です。

 ネットアニメの企画は、CGMからメジャーコンテンツを生み出す環境を、リスクのない形で作ることができるかもしれない、との仮説により始めたものです。のまネコなど、CGMから生まれるメジャーコンテンツや、「スキージャンプ・ペア」「ほしのこえ」など、個人でもクオリティーが高く人気もあるアニメが作成できる環境が整ってきた状況が、企画の背景にあります。

 ライブドアネットアニメは、投稿されたアニメが著作権的に問題ないか審査し、問題ないものだけを掲載しています。掲載されたアニメの作者にはライブドアポイントのインセンティブを与え、CGMの投稿者へ作品の発表の場と、多少の収入をもたらすことでコンテンツを集めています。

 投稿されたコンテンツに優秀なものがあった場合には、作者へコンタクトして権利処理を行い、その後はライブドアの公式アニメーションとして配信します。このようにしてCGMプラットフォームを管理することで、リスクのない形で、CGMからメジャーコンテンツを生み出そうとしています。

やわらか戦車に働いた“口コミ力”

 ライブドアネットアニメで生まれた初めてのメジャーコンテンツが「やわらか戦車」です。やわらか戦車とは、柔らかい素材でできた戦車が音楽に合わせて歌い、しゃべるもので、1本当たり1分〜2分、長くても7分程度でストーリーで、現在第7話まで公開されています。

 公開以来、口コミで人気が上昇し、関連グッズを作りたいとの依頼が30社程度から寄せられました。10月には相当な数のキャラクターグッズが市場に出回る予定です(関連記事参照)。

 やわらか戦車がヒットした理由は、作品の質の高さももちろんですが、作品の展開と同時にブログやSNSで口コミが発生し、それが作品にフィードバックされたことも、大きな要因です。

 やわらか戦車は、第2話を公開したあたりで、作者による公式ブログをスタートさせました。アニメの作者が自らブログを書き、ユーザーから寄せられるコメントに対して、ブログ上で回答し、あるいはそれを作品に反映させるという、従来のアニメでは考えられない流れで、ブログへのコメントは多いときで400件を超えました。これは、ユーザーと“マッシュアップ”したアニメーションだった、と言えるでしょう。

 ブログは今でもたくさんのユーザーからコメントが付きますし、「mixi」のやわらか戦車コミュニティーには約5000人が参加しています。新作が配信されるたびに、これらのロイヤリティーの高い人達から口コミ的にやわらか戦車の存在が伝達されて続けています。

グッズ開発もマッシュアップで

 やわらか戦車は、キャラクターグッズを手がけるメーカーが集結し、1つのブログを運営しています。ブログ上では、各メーカーが交互に商品開発の過程を投稿し、ファンから商品に対しての意見が寄せられます。メーカーはこれを商品開発に反映させています。

 例えば、本の出版を準備している出版社は、コメントで本の内容に対する意見を求めて、実際にそれを本に反映させようとしています。これはキャラクターグッズ開発のマッシュアップと言えるもので、完成した商品には、すでに優良顧客がいる状態で発売できるかもしれません(関連記事参照)。

CGMからメジャーコンテンツが生まれる可能性

 ある一定の条件が整った時、CGMから生まれたコンテンツ(CGC:Consumer Generated Contents)がメジャーコンテンツとなる可能性は十分にあります。CGCはプロが作ったコンテンツと異なり、環境さえ整っていれば、無限に生まれてくると言えます。母数の多さを考えると、そこからメジャーコンテンツが現れる可能性は必ずあると言えるでしょう。

 CGMをメジャー化するという流れは今後、コンテンツ制作の1つの流れとして確立するのではないでしょうか。この流れが進むと、コンテンツを楽しむ側と作る側の境界や、CGCとメジャーコンテンツの境界が限りなくあいまいになりそうです。細分化していくユーザーニーズを満たすように、コンテンツの楽しみ方も多様化するでしょう。

 この流れが進んでいく中で、CGCからメジャーコンテンツを意図的に発生させることが可能となる日が来ると私は信じています。

・ネット時代の新潮流――CGMとは バックナンバー

第1回「2ちゃんねるもYouTubeもCGM

第2回「CGMと既存メディアの“マッシュアップ”

第3回「口コミがマスコミを超える日

伊地知晋一氏のプロフィール

 ライブドア社長室長 コーポレート担当。グループ会社全体のWeb戦略を推進している。

 1996年、メール配信システムのシノックスの取締役として創業から参加。退職後、ユーティリティー系ソフトを販売するプロジーグループに入り、オンザエッヂ(現ライブドア)による買収と同時にオンザエッジに合流。

 2002年、オンザエッヂの旧ライブドア買収に伴い、無料プロバイダー・ライブドアの責任者として運営に当たる。2003年、ポータルタルサイト ライブドア立ち上げ。同時にスタートしたブログが国内最大のサービスに成長した。このほか、約2年半で50以上のネットサービスを立ち上げる。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.