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“ネットらしさ”の先に――CGM的民主主義ネット時代の新潮流――CGMとは(10)(2/2 ページ)

» 2006年10月16日 09時05分 公開
[伊地知晋一ITmedia]
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“負”のCGM

 どんな技術でも、それを使う人次第で、社会に対して善くも悪くも利用することができます。

 ブログやSNSなどCGMプラットフォームは、誰でも簡単に世界に向けて情報配信できる非常に便利なツールです。それはつまり、負の力を働かせる情報を配信をすることも簡単にできる、ということです。

 例えば、掲示板で自殺に関する情報を配信し、集団自殺につながる例が過去にありましたが、これも負のCGMがもたらす一つの問題でしょう。CGMプラットフォームは双方向性であるために、負の情報を配信した人と、それを見た人がつながることができます。そのため、同じ考えを持つ人たちが集まることでより大きな力となり、従来では考えられない事件に発展することもあります。

 mixiでも「mixiの日記を介してウイルスが広まっている」というデマ情報が、日記やメッセージを介しチェーンメールのように大量の人たちへ伝達されました。さらに、mixiは招待制の為、友達からの日記やメッセージより伝達されたことで、疑うことなく情報を広めてしまう人が多く発生しました(関連記事参照)。

 この件では特に実害はなかったようですが、このようなデマが簡単に広まってしまうコミュニティーを悪用する者も現れるでしょう。

CGMによる市民運動

 市民運動にもCGMが活用できる可能性があります。特に、署名活動をベースとした運動は、SNSなどを使った方が作業効率が格段に上がりそうです。

 紙による署名活動は人手がかかるため、少人数で行うにはハードルが高くなりますが、SNSなら1人で始めることもできますし、誰が賛同しているか知ることもできるので、賛同者と連携してさらに大きな活動にできる可能性もあります。

 今まで個人ではどうすることもできなかった小さな意見も、ネットの世界で仲間を呼び、集団になることにより、政府や大企業などの巨大組織に影響を及ぼすことができるとすれば、それはある意味、“正しい”民主主義の姿であるのかもしれません。

 これまで、市民の声を集めて社会を変えるといった役割は、既存のマスメディアが担っていたとされていました。しかし、ネットが出現し、市民がメディアを手に入たことによって、今後は自分が重要だと思う意見を自由に発言し、同意する人たちを集め意見を集積することで、ひとつの大きな力に変えることができる可能性があります。

 ネットによる市民運動は、社会に大きな影響を与える存在となるでしょう。ブログやSNSに批判的な意見が殺到する「炎上」も、この市民運動的な動きの原始的な姿と言えるかもしれません。

私の希望的観測

 今のCGMは玉石混交の世界です。希望的観測を言うと、今後は、新たな手法や技術により、玉と石が選別できるようになり、その結果、誰もが自由に発言し、それらが集合体になるもとで、真に中立で民主的なメディアが現れるでしょう。

 CGMプラットフォームに人類の全ての知恵が集まり、1つ1つが知恵のブロックのような役割を持ち、それらは組み合わせによって多様な目的をもったメディアが形成されていくでしょう。

 そしてこれらは、その力を善くも悪くも発揮することになりますが、それがどちらに向かうのかは、これらを利用する人たちの、使い方一つにかかっているのです。

Web0.0の世界観

 連載の初回で書いた「Web0.0の世界観」は、初めてインターネットがやって来たときに誰もが夢見たものや理想へ、ネットの世界が向って行っている、ということでした。Web2.0の定義はその過程にすぎず、今後誰かがWeb何点ゼロと呼ぼうとも、結局はそこに向っていっているだけであるということです。

 Web2.0とは、特に新しいものがやってきたわけではなく、ネットの世界が少しずつ進化し、これからも進化してゆく過程を分かりやすくするために、一旦、定義を入れただけなのだと私は認識しています。

 ここで大切なことは、この定義を置くことでネットの進化が再認識しやすくなった今こそ、ネットがもたらす世界とはそもそも何なのかをもう一度思い浮かべることです。それがこの先インターネットの向かう未来の青写真だからだと感じるからです。

 私がインターネットを初めて知った時に感じたことは「誰でも簡単に世界に向けて情報発信をすることができる世界」「距離の概念が関係ない、だからどこでも仕事もできるし、いろいろなサービスも受けられる」「オープンソース的な概念がもたらす、皆で協力することで出来上がる新しいもの作り」――です。

 これらは徐々に現実のものとなり、その恩恵をもたらし始めていますが、Web何点ゼロになろうと、その中心に存在するのがCGMの定義であり、その最後の1文字のMは「Media」にとどまらず、個人の体験や知恵、知識、技術、作品等、多岐に及ぶ多くの人々による知恵の集合体なのです。

 インターネットと同じ時代に生まれた人たちが、これらの力を武器として立ち上がり、インターネットによる豊かな社会を現実のものとすることができることを願っております。

あとがき

 10回の連載でCGMとは何かについて述べて参りましたが、今回で最終回となりました。これまで読んで下さいましたみなさまに感謝いたします。

 Web2.0の定義はあいまいなところがあるので、あまり使いたくはなかったのですが、感覚として理解できて、便利な言葉なので多用してしまいました。また、CGMの定義も、その最後の1文字のMが「Media」とどまらないため使いにくかったのですが、新たな造語を作るのも、話が分かりにくくなるのでやめました。しかし私が考えるCGMの重みをご理解いただけたらうれしいと思います。


ネット時代の新潮流――CGMとは バックナンバー

第1回:2ちゃんねるもYouTubeもCGM

第2回:CGMと既存メディアの“マッシュアップ”

第3回:口コミがマスコミを超える日

第4回:「のまネコ」「やわらか戦車」に見るCGMビジネスのリスクとチャンス

第5回:SNSやブログ、「勝ち組・負け組」の分かれ目は

第6回:なぜ起こる? 「炎上」の力学

第7回:“ネットの声”をお金にするには

第8回:ブログ・SNSをマーケティングに生かすには

第9回:CGMで稼ぐための技術

伊地知晋一氏のプロフィール

 ライブドア顧問兼ゼロスタートコミュニケーションズ専務取締役。

 1996年、メール配信システムのシノックスの取締役として創業から参加。退職後、ユーティリティー系ソフトを販売するプロジーグループに入り、オンザエッヂ(現ライブドア)による買収と同時にオンザエッジに合流。

 2002年、オンザエッヂの旧ライブドア買収に伴い、無料プロバイダー・ライブドアの責任者として運営に当たる。2003年、ポータルタルサイト ライブドア立ち上げ。同時にスタートしたブログが国内最大のサービスに成長した。このほか、約2年半で50以上のネットサービスを立ち上げる。


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