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» 2008年07月18日 12時59分 UPDATE

座談会 UGCの可能性を考える(前編):「ニコ動作家はもうけちゃダメ?」「才能、無駄遣いしていいの?」 (2/4)

[大塚純,ITmedia]

津田 「のまネコ」のときもそうですよね、やっぱり(エイベックスが発売したCD「DISCO-ZONE〜恋のマイアヒ〜」に収録されたムービーに登場するキャラクターを「のまネコ」として、エイベックスネットワークスがキャラクターグッズの販売を始めた。同社サイトにはコピーライト表記もあったことから、「ネット上のキャラクターを改変して金儲けに使うのは納得できない」などとネットユーザーが反発。エイベックスは商標登録を取り下げた エイベックスが「のまネコ」Flash収録を中止へ 商標登録も中止依頼)。

吉川 初音ミクが出たときに、あそこからアマチュア作曲家で才能のある人が目立っていって、結果としてプロデビューするというルートが、そんなにたくさんではないかもしれないけれど、1年に1人とか誕生するルートが出来ることを楽しみにしていたし、そうなってほしいなと思っていたんですよ。

 「みくみく」で、やっとそうなるのかなと思ったら、ああいう風になってしまった。たぶん作者の人は全然悪くないのに、「もうけるのはけしからん!」とか「権力側の片棒かついだ」みたいに周りが勝手に騒ぎ始めて。やっぱり出る杭は打たれるから出ないようにしようみたいな、そういう雰囲気になったのが結果としてすごく残念で。その後も何度か同じことが繰り返されてますけれど、起こる度に、かわいそう、それやめた方がいいよなと思ってますけどね、見てる側としては。

栗原 「みくみく」作者さんのブログエントリーを見ても、なにかあまりよく分かってない節がありましたね。

津田 完全に巻き込まれて、彼が一番の被害者ですよね。

コミュニティーが育てた著作物は「コモンズ」

栗原 これ、整理すると実は問題としては3つあると思うんです。

画像 JASRACに信託できる支分権。「インタラクティブ配信」に、ネット配信も通信カラオケも含まれている

 1つは、一旦JASRACに信託してしまうと、JASRACの送信権というのは、通信カラオケもネットも全部一緒くたになっているので、通信カラオケで商業利用しようとすると、ネットでもJASRACに金を払わないと誰も使えなくなるという。つまり、JASRACの運用上の問題ですね。

 それから、クリプトンは初音ミクをキャラクターとして保護したいから、アーティスト名で「初音ミク」を使うのはやめてねと言っていたのが、ドワンゴに通ってなかった。これは意思疎通ができていなかったという問題。

 3つめは、これはちょっと微妙なところなんですが、一部の極端なネット世論だと、そもそも通信カラオケでもうけようとすること自体けしからんと。

一同 (笑)

津田 要するにコモンズであれということですよね。

栗原 かつ、クリエイティブ・コモンズ(CC)というよりは、パブリックドメインにしろということに近いですよね、彼らが言ってることは。CCの非営利、継承もいかんという。つまりは、パブリックドメインにしろと怒っている人達がいる。

津田 ネットで、コミュニティーが育てた著作物は、そのコミュニティーの共有物だという考え方は、たぶん昔からあったと思うんですよ。ただ、いわゆる嫌儲みたいな考え方というのは、一体誰が主張しているのかという疑問はある。

 コミュニティーが育てたと言っても、その中でもコアの部分に直接クリエイティブに貢献しているクリエイターがいるわけじゃないですか。例えば、初音ミクで曲を作りましたと、でもそれに対して絵を付けないとニコニコ動画は成立しないから、誰かCGを書く人が必要だし、Flashで動画編集をして――みたいな話でどんどん盛り上がっていく。でも、「実作業」をするクリエイターの数って実はそんなに多くない。

 再生数を確認できたりとか、コメントやブログで宣伝したり、共有物のクリエイティブ作業のサイクルの中に見る側も参加できるけれど、やっぱり作る側と見る側では貢献の方法とか貢献度は明らかに違うわけですよね。ニコニコ動画はそのあたりがあいまいになっているとは思うんですけれど、外野から引いて見ると、消費する側、クリエイティブに直接関わっていない側に「オレらがこれを育てたんだ」という意識はすごく強くあるように思えるんですよね。

 で、おそらく、そういう消費する側、見る側が、嫌儲的な考え方をものすごく主張しているような気がするんですよ。そういう人たちが嫌儲的な「空気」を作っていく。

 たぶん、全体の数でいったら、「別にいーじゃん儲けてもそれぐらい」「良い作品を作ったんだからそれで作者にお金入るんだったら幸せじゃない」と考えているニコニコ動画ユーザーもそれなりにいるはずなんですよ。いるに決まっているんだけれど、それに対して嫌儲的な考え方で、強いコメントがどんどん支配的になっていくと、その支配的な発言が、もう全部の意見になっていくみたいな、その繰り返しが起きている。

 それはそれでコミュニティーの空気とか居心地の良さだから、一概に良い悪いじゃ言い切れない部分あるんですが、「それで結局、誰が得するの?」って話になると、クリエイターはあまり得してないですよね。得するのは場を運営しているところだけ。だから、どこかできちんとガイドラインなりルールなりを整えていかないといけないんじゃないかと思います。2ちゃんねる(2ch)が生まれて以降、場を変えてずっと同じようなことが行われてきてるという感覚がすごくありますね。

「初音ミクはオレが育てた」

画像

吉川 最近のUGCの一つの特徴ですけれど「初音ミクはオレが育てた」と思ってる人って、すごく何千人もいるような気がしますよね。特に出た時が、クリプトンさんもその苦肉の策で出して「みんなで応援しよう」みたいなノリがあったから。自分では曲を作ってなくても、ブログに書いただけで「オレが応援したからああいう風にヒットしたんだ」みたいな感じに思っている人がいて。そういう気持ちはよく分かるんですが、それと権利問題はちょっと切り離すべきというか、そこをうまく整理していかないといけない。気持ちがうまく整理できなくて文句を言っている人がいるのかなという気はしますね。

太田 リアルな生身のアーティストとよりも結びつきが強いんでしょうね。応援の仕方として。

津田 それは例えば、ヒットチャートみたいなものよりも、直接再生回数だとか、マイリストの数だとか、デジタルでリアルタイムに出てくるから、そこに「育てている感」みたいなものがあるし、自分自身がメディアになりますからね、そうなると。

吉川 でも、売れないアイドルを追いかけて、「売れるまでが楽しいんだ」みたいなのがあるじゃないですか。ああいうふうに昇華すればいいんですけれど。まだそこまでいけていないのは、もしかすると歴史が浅いからなのかもしれないですね。

津田 再生数が何百万とかいって、ものすごく有名になって、ネットで話題になるというところが、消費する側の人達にとってみれば理想的なゴールなんでしょうね。でもそこから先にお金の匂いがすると、途端に「え!?」みたいにさめちゃうところがあるのかな。

栗原 これはやはり、CCで非営利・継承のような、「非営利だったら自由に使ってくださいよ、ただ、通信カラオケでちょっともうけるぐらいは察してくださいよ」というのが、すごく自然な姿だと思うんですよ。それをなんとか上手く効率的にサポートできないかなと思っているのですけれど。たぶん今のJASRACの仕組みだと難しいですよね。

CCは日本に馴染まない?

津田 嫌儲につながる考え方というと、ネットコミュニティーと権利意識とか、著作者の帰属性とか、匿名性って、実はすごく関わり合っていて。CCの1つの問題点というか、日本になじまないところが1つあるんですよ。それはクリエイティブ・コモンズを付けるときに「BY 誰それ」、要するに著作者表示をデフォルトで入れなければならないということ。

画像 ピアプロ

 それに対して、クリプトンがやっている「ピアプロ」というサイトがあって。イラストや楽曲を投稿できるサイトですが、そこでは「BY」をなくしてもいいんですよね。つまり、著作者の表示は義務じゃない。実際、著作者は表示しなくていい、でも非商用にしてね、でもそこから先は自由にコピーしていいよというのがかなり多いんですよ。「匿名で共有したいけど、ただし金もうけには使うな」みたいな。そういうニーズが作り手の側にもあるんですね。

 そういう価値観は欧米のクリエイターには一番理解されないみたいですね。彼らは「クリエイターは名前を出して売ってナンボ」。要するに個人が立つことに意味があると考えているから、もともと米国で始まったCCもBYは外さないことがクリエイターに対して最低限守ってあげるポイントだと考えたんでしょう。

 日本の場合、誰が作ったかは問題じゃなくて、お金もうけに使われないで共有されているということに価値を見いだす人が利用者側に多いし、ネットで活動しているクリエイターにもそういう価値観がみられる。これはおそらく、日本独自のネットコミュニティーの閉鎖性だったり特殊性だと思うので、このへんの議論をするときはその特殊性を下敷きにして議論していかないと、という気がしてます。

コピーでもうけちゃダメ?

吉川 クリプトンのピアプロは結構上手だと思うんですが、あれでもやはり難しいところがありますよね。非営利や非商用はOKと言われても、そもそも「営利目的」とか「商用」という定義自体がわかりにくい。私みたいな素人が使っていると、どの場面が非営利で、どういう使い方が非商用なのかということにいつも悩みます。

栗原 そうですよね。アフィリエイトで稼いだりすると、「それって非商用なの?」という話になってしまう。

津田 2chのまとめブログとかもそうですよね。もともと2chは、ネットの色々なところからテキストなんかを無断転載してきているのに、「電車男」以降、書き込みのログは全部2chが持つようになった。そのダブルスタンダードもどうかと思いますけれど、そこからさらに無断で2次利用してお金を稼いでいる人もいるわけで。

栗原 ただ、それを言い出すと、Googleだって他人のコンテンツをコピーして、アクセス数を稼いで、私企業としてもうけてるわけですから。

津田 そうなんですよね。そうすると、じゃもう著作権法ってどうなのよ? という話になる。

栗原 一般論として日本の場合、善いとか悪いとか、そういう倫理的な話になりやすいんですが、アメリカでは「どうやってもうけるか」という話に常にいくんですよ。例えば、勝手にコピーされるのは困るから、もっと皆でもうけられないか、コピーすることでうまく分け前をとれるなら結果としてもっともうかるよねみたいな。そういうエコシステムをどうやって作っていくかという話にまとまるケースが多いんです。日本は、まだその辺がちょっと苦手かなという気がします。

吉川 著作権を侵害された本人と、それを侵害した人がいて、まったく別の第三者――作品を見てる人が異様に「けしからん」と騒ぐというのがあるじゃないですか。あれは日本だけなんですかね?

津田 どうなんですかね。でも、他人の著作物をネットにあげて、それでアクセス集めたりAdSenseでもうけてるということに対して、ものすごく批判的な人はいますよね。

著作権はインセンティブか、自然権か

栗原 著作権の成り立ち的に言うと、インセンティブ説と、自然権説というのがあるんですよ。本来情報というものは自由に流通すべきものですよね。だけど本当に自由にしていると皆やる気がなくなってしまうでしょ。だから、「ちゃんと苦労した人にはお金がまわる仕組みにしましょうね」という、もうける仕組みが著作権だという発想があって、それがインセンティブ説。それとは別に、そもそも著作物を保護するというのは固有の権利だから、それは一種の人権だと。そういう発想もあって、日本はどちらかというと後者に近いと言われてきましたね。

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