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最終章-2 近づく攻殻機動隊の未来 ネットの発達と人の心人とロボットの秘密(2/2 ページ)

» 2009年06月10日 15時05分 公開
[堀田純司,ITmedia]
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オンラインゲームとメタバースの例

 Massively Multiplayer Online Role-Playing Game──略してMMORPGと呼ばれるジャンルのオンラインゲームでは、運営者がサイバースペースに独自の時空を設定。ゲームに参加するプレイヤーはキャラクターとしてそのゲーム空間に宿り、他のプレイヤーとコミュニケーションしながらゲームを続けることになる。ゲーム内のアイテムや通貨をめぐって独自の経済システムまでが成立してしまうことも珍しくなく、ゲーム内のアイテムを盗んだとして、現実の罪に問われる事例も出てきている。

 筆者も経験したことがあるのだが、リアルの社会(と、そして物理的な肉体)を離れて仮想の秩序の中に参加する感覚はとてもおもしろく、ネットゲームに熱中する人の感覚がよくわかる。ゲーム内のコミュニケーションはとても楽しく、リアルの友人にも相談できないことでも、ゲームの中の知人にはできたりするそうだ。

 またスタンダードにはなり損ねたが、セカンドライフのような仮想のコミュニケーション世界(メタバース)は次々とつくられている。その中には「美少女ゲームの世界観」などというものまであるが、将来はこうした仮想世界が人間のコミュニケーションに欠かせないインフラとなっていくだろう。

 おそらくは、セカンドライフのような、ある特定の仮想世界がスタンダードになってシェアを占めてしまうのではなく、いくつもできた小宇宙が相互に接続されることで、巨大なメタバースが誕生するのではないかと予想するが、これは想像である。

 そこでひるがえって考えると、仮想空間でキャラクターをあやつって活動することが行われているのであれば、逆にそのキャラクターに体を与えることができれば、物理空間でも活動できることになるのではないだろうか。

 つまり義体をつくる技術があれば、人はそこにゴーストを宿らせて、遠隔地に自分の存在を送りこむことができるはずである。

 しかし実際には、まだそうした技術は実用化されていない。その結果、仮想の世界のコミュニケーションが突出して日々発展している。

 これが石黒教授の指摘する「人は肉体を解放するのが早すぎたかも知れない」という状況なのだが、自分の肉体は家に置いたまま、機械の体に心を宿し、遠隔地で活動することを突飛と思われるだろうか。

 それとも「ただのリモートコントロールだろう」と思われるだろうか。しかし、そうした単純な話ではない。

 このような実験がある。ジョークグッズでいい。まず、ゴムでできた玩具の手を買ってくる。そしてその手をテーブルの上に置き、友人にその手を「トントン」と叩いてもらう。その時に自分の手はテーブルの下に置いて、こちらもゴムの手と同時に叩いてもらう。

 そうするとなにが起きるか。少なくない人が、1分を超えたあたりから、ゴムの手から感覚が流れ込んでくるのを感じ、ゴムの手があたかも自分の体のように感じ始めるのだ。

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堀田純司

 ノンフィクションライター、編集者。1969年、大阪府大阪市生まれ。大阪桃山学院高校を中退後、上智大学文学部ドイツ文学科入学。在学中よりフリーとして働き始める。

 著書に日本のオタク文化に取材し、その深い掘り下げで注目を集めた「萌え萌えジャパン」(講談社)などがある。近刊は「自分でやってみた男」(同)。自分の好きな作品を自ら“やってみる”というネタ風の本書で“体験型”エンターテインメント紹介という独特の領域に踏み込む。


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