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楽器とエフェクターをクラウドに――ヤマハが示す、IT×音楽(2/3 ページ)

» 2010年03月02日 11時13分 公開
[松尾公也,ITmedia]

既に動いているクラウド型VST

 では、具体的にはどのようになるのか。3月1日に行われたデモでは、Windows版CubaseにPlugin Dockというソフトを組み込んだものが使われた。ユーザーは、Plugin Dockを経由してDAWに入力されたデータを操作し、その処理をクラウドで行い、その結果をまたマシンに戻す。Plugin Dockからはまだ組み込まれていないプラグインを選択可能になっており、そこからさまざまなエフェクターを取得して、Cubaseに取り込まれているトラックに反映させる。

 女優の浅井江理名さんが歌った「赤いスイートピー」のボーカルトラックを使ったデモでは、イコライザとリバーブ、そしてハーモニーエフェクトのPitch Fixを使用した。そのすべてがクラウド経由。ネット越しで処理されるため、レイテンシー(遅延)が発生する。この場合は約2秒。

画像 赤いスイートピーを使ったクラウド型VSTのデモ画面。画面上がCubase、下2つのウィンドウがPlugin Dock

 レイテンシーが大きすぎると使いものにならないケースも存在する。そういうときのために、ローカルマシンのCPUを使って処理するLocal Processingというオプションが用意されている。クラウドではなくなるが、その分レスポンスは速くなる。ローカル処理するかクラウド処理するかはユーザーが決められるというわけだ。

 クラウド化するメリットはローカルマシンの負荷軽減だけではない。VSTプラグインベンダーは、DAWソフトの中にショップを持つことができることになる。Plugin Dockの中に、1日利用とかフル機能とかのオプション付きでアプリを購入できる機能が付けば、iPhoneにおけるアプリ内課金のようなシステムも作り上げることができる。このコマースの部分でヤマハと組むのが、ビープラッツ。企業向けのSaaS提供で実績を持つ企業だ。海外への展開も視野に入れている。

iPhone、iPad、Androidも? クラウド型VSTの可能性

 ヤマハはこの次世代VSTに、Windows、Macといった従来のプラットフォームの先を見ている。例えばiPhoneではPocketGuitar、iShredなどのギターアプリ、Manetron、Pocket Organ C3B3などのビンテージ鍵盤楽器、8bitone、nesynthといったチップチューン音源をはじめとするさまざな楽器アプリが毎日のようにリリースされ、大きな市場を作り出している。

 iPhoneという小さな画面では実用性で二の足を踏む場合もあるだろうが、これがiPadになると、DAW用コントローラや鍵盤コントローラ、サンプラーとしても実用レベルとなる。自由自在にデザインできるタッチ画面があれば、マウスでコントロールする以上の操作性が実現できる。

 そして、いずれは楽器コントロールに特化したAndroidデバイスが登場してくるかもしれない。クラウド型VSTは、そのときの標準的なソフトウェアプラットフォームとなる可能性を秘めている。従来のPC向けアプリと同じクラウド処理、コードで対応可能となることのメリットはデベロッパーにとって大きいし、同一ライセンスでPCからモバイルデバイスまで使えるとなれば、ユーザーも喜ぶだろう。

 クラウド型VSTの中では、現在のVSTやVSTiはそのまま動作しない。ヤマハはこれからアプリの仕様を決め、SDKを作るなどしてデベロッパーに広めていくことになるが、そのスケジュールは未定だ。どのバージョンのCubaseからこの仕組みがバンドルされるかなどについても決まっていない。

 しかし、バーチャル楽器市場を広げる仕組みとしてクラウド型VSTはかつてない可能性を秘めており、今後の展開を見守っていきたい。既にVSTiとして提供されているVOCALOIDがクラウド型VSTにのらないというのは考えにくいし。

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