ITmedia NEWS >

著者とアスレチックスGMが語った「マネーボール」への情熱(1/2 ページ)

» 2011年11月11日 23時15分 公開
[伏見学,ITmedia]

「本当にカネがなかったんだ。どうやってチームを強くするか必死で解決策を探していた」――。米メジャーリーグのオークランド・アスレチックスでゼネラルマネジャー(GM)を務めるビリー・ビーン氏はこう振り返る。同氏を主人公にその活躍ぶりを描き、旧態依然としていた野球界の常識を根底から覆すきっかけとなった一冊が「マネーボール」(原題:Moneyball The Art of Winning An Unfair Game)だ。

オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGM オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGM

 同書は、アスレチックスが統計解析データを用いていかに少ない投資で最大の効果を生み出したか、つまり、年俸の安い選手でいかに強いチームを作り上げたのかについて語られたものである。

 ビーン氏は、元々は選手としてメジャーリーグの世界に飛び込んだのだが、思うような活躍ができずに10年足らずで引退。1990年に球団スタッフに転身した。ところが、時を同じくして、アスレチックスは財政悪化による優秀な選手の放出などによって、厳しい経営状況が続いていた。

 そうした中、ビーン氏が出会ったのが、統計理論「セイバーメトリクス」である。セイバーメトリクスとは、野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価やチーム戦略を考える分析手法だ。ビーン氏は1997年にGMに就任すると、このセイバーメトリクスを駆使し、極力コストを抑えて効率的なチーム力のアップを目指した。すぐさま成果は現れ、2000年から4年連続でアスレチックスをプレーオフ進出に導いたのである。

「欠陥品を集めている」と揶揄

マイケル・ルイス氏 マイケル・ルイス氏

 ビーン氏の取り組みとアスレチックスの大躍進に目を付け、「マネーボール」を書き上げたのが、ノンフィクション作家のマイケル・ルイス氏だ。「セイバーメトリクスは野球のあり方を大きく変えた。多くのチームでは、打率や打点、本塁打よりも出塁率や長打率の高さを重視するようになった」と同氏はメジャーリーグに到来した変革を説明する。今ではマネーボールという言葉自体も、こうした取り組みの象徴として球界に定着したという。

 ビーン氏がセイバーメトリクスを取り入れたのは、財政難というチームの台所事情に加えて、従来までの選手の評価ポイントを見直すべきだと考えたからである。

「アスレチックスは多くの統計データを持っていたが、実はほとんど使われていなかった。そこで、これらの情報を活用、分析すると、評価に関する新しい視点が色々と浮かび上がってきた」(ビーン氏)

 データ分析によって得られた結果を基に、今までの常識にとらわれない“規格外”の選手のリクルーティングを行った。「ほかのチームは(背が高い、筋力があるなど)外見で選手を評価していた。小柄な選手や太った選手を獲得しようとする私に対して、周囲からは“あいつは欠陥品を集めている”と言われたものだ」とビーン氏は述べる。

 実際、ルイス氏もアスレチックスのロッカールームに訪れたとき、太っていたり筋肉がなかったりと、体型のくずれた選手ばかりで驚いたという。「まるでアスリートらしくなかった。ユニフォームに多くのものが隠されていたのさ」と苦笑する。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.