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セガの社内男子トイレから生まれた「トイレッツ」 血と汗とその他を流した苦闘の物語(2/2 ページ)

» 2011年11月18日 11時31分 公開
[榊原有希,ITmedia]
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 それでも、興味を示してくれた会社はいくつかあった。どうしたら購入に至ってくれるのか。開発チームは策を練った。都内のパチンコ店にトイレッツを設置させてもらい、トイレの出口調査を行った。ある食品4種類を、トイレッツの電子POPと紙に印刷された広告とでそれぞれ表示し、認識の差を検証したのだ。4種類全てを記憶していたのは、紙の広告を見た人では15%だったのに対し、トイレッツを見た人では51%という好結果が得られた。

photo トイレッツでできるゲーム。前の人と尿の勢いを競う「鼻から牛乳」では、放尿と同時に画面内のキャラクターが押し相撲を繰り広げる

 「トイレッツには、細かい情報まで伝える力がある」。そんなセールストークで営業をかけていった。さらに、トイレッツを購入した店舗の売り上げアップにもつなげられないかと、再びテストを試みた。昨年から今年の年末年始にかけ、今度は都内の居酒屋に設置。ある特定のメニューを広告表示したところ、2週間でオーダー数は2.2倍にのぼった。テスト前、店側にはトイレにメニューを表示することに対する抵抗もあったが、ゲーム目当ての若い客層が増えるというメリットもあり、喜ばれたという。

 しかし、あの手この手で販路を模索しながらも、まだ社内で商品化の正式決定は下っていなかった。「年末年始のテスト結果を持って、経営陣を口説きにいきました。ビジネスとして判断を迷う商品ではありましたが、最終的にゴーサインを出してもらえた」と町田さん。ところが、やっとゴールが見えてきたところに起きたのが、3月11日の東日本大震災だった。

 節電が求められる中、トイレでのゲームは世の流れに逆行してしまうのではないか。トイレッツはまた頓挫しかけたが、東北のお酒を飲んで被災地を支援しようという居酒屋業界のムードが開発を後押ししてくれた。震災がきっかけとなり、「節電モード」の機能も加えられた。

photo 尿の量を計測してくれる「溜めろ!小便小僧」。放尿すると画面内でも「ション太くん」が放尿。排出量によってリアルタイムに順位が上がり、10人抜き、20人抜きの爽快感をトイレで楽しめるという

 こうした奮闘の一方、セガ社内の男子トイレでは、商品化に向けた開発の試行錯誤がぎりぎりまで続いていた。当初、試作機は原価で30万円を超えてしまったため、10円単位のコストダウンが課題だった。重量も3キロを切らなければトイレの壁が保たない。最終的に2.9キロまで軽量化。しかし、ここまで来て、思わぬ敵がトイレに潜んでいた。

 尿の感知には、野球のスピードガンと同じ仕組みであるマイクロ波センサーを採用したが、その扱いが難問だった。尿と洗浄水の区別がつかず、ゲームの始まるタイミングがずれてしまう。開発チームは今年の夏休みを返上、節電でクーラーも効かない男子トイレにこもって研究を重ねた。

 2、3カ月かけ、独特のアルゴリズムによって、ある周波数によって流れる水の区別がつけられるようになった。こうして秋が深まる頃、トイレッツの発売日が正式決定した。「トイレの形も千差万別で、どう対応させていくか大変でした」「今では、小便器のメーカー、型番まで一目で分かるようになりました」。町田さんと十文字さんは苦闘を振り返る。

 セガの男子トイレで、洗浄水と共に開発チームの血と汗と涙も流れて完成したトイレッツ。現在では、居酒屋以外にも地方の道の駅や、ネットにアップされた動画を見た海外の業者からのオファーも来ているという。「女子トイレでも遊べるゲームをという話もあります。全く同じものはできないと思いますが……」と十文字さん。セガの次なる市場は、まさか女子トイレ?

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