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時代は多様性を欲してはいない──コンテンツのクラスタ化と、むしろ画一化部屋とディスプレイとわたし(2/3 ページ)

» 2012年08月03日 15時17分 公開
[堀田純司,ITmedia]

「勝ち組一色」という画一化

 結構な話じゃないですか! なにが問題なのでしょうか。ですが現状は、必ずしもよいことばかりではなく「売れ筋への集中と横軸の参照消滅」というリスクも、顕在化しています。

 ヒット作は出る。しかし書籍や雑誌全体の市場規模が縮小している。つまり「売れるものには注目が集中して傾斜が起こり、いっきにどかんと売れていくけど、売れないものはまったく売れない」という状況になっている。勝ち組と負け組の格差が広がって、市場は多様化するどころか、むしろ勝ち組一色に画一化しているともいえます。

 考えてみると、自分の実感でもこれはよくわかる気がします。時代はデフレ。限られたお金を使うのに、リスクは避けたい。損はしたくはありません。私自身がそうですが、物を買うに当たって、徹底的に情報を集め、レビューを参照し、ようやく購入に踏切る。そうすると自然と購入対象は、ランキング上位に登場する売れ筋へと集中していくことになります。よく言われることですが、検索結果のページも、2ページ目以降は急激に参照されなくなる。ケータイ音楽配信などでも、まったく同じ現象が見られました。

 また「どんな細かい情報も拾い上げることができる」とは、逆にいうと、私たちが膨大な情報に囲まれて暮らしているということでもあります。私たちは、史上最大の情報に取り囲まれて生活している。そうした情報をすべて参照し、自分の欲しいものを見つけ出す時間は、忙しい現代人にはありません。そうするとまた、誰かが紹介しているもの、売れていると報道されているものに注目は集まり、こうして現代的なアテンションの地すべり的な奔流が生み出されることになります。クリック1つで誰かの印象的なコメントを共有できるという“流れに乗りやすいメディア”、SNSの普及もまた「売れ筋への傾斜」を、生み出しやすくなっているのかもしれません。

時代は「多様性を欲してはいない」

 という訳で、どうやら現代では、多様性はむしろのぞまれていない。意外にも時代は「多様性を欲してはいない」らしい。

 この現象はなんだか、人間の人口集中現象に似ているような気がしています。物流や通信のインフラが整い、なにも都市部に集中して暮らさなくてもよくなった。こうした時代を迎えて、人口は都市外に拡散していく、という予想を立てていた人もいましたが、実際には、世界的に大都市への人口集中が加速しているそうです。同じようにメディアの発達が、趣味生活の多様化を生むのではないかと思われていましたが、現実は必ずしもそうはなりませんでした。

 こうした多様性の縮小は「綾波とアスカ、どっちが好き?」と聞かれて「伊吹マヤ」とこたえるような、私のような渋い趣味の人間には正直、厳しい時代です。思えば、なのですが、子どものころから、いつも渋いもんばかりチョイスしてきました。サターン、ドリキャスも買いました。それがまさか、まわりを見れば大ヒット作ばかりの世の中になるとは。

 ただ、なのですが「そんな単純に画一化しているわけじゃないだろ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。「たとえば紅白歌合戦はどうなんだ?」と。

 確かに、現代では昔のような、国民的な歌手はいなくなりました。アイドルから演歌まで、紅白の最初から最後まで登場する全歌手の歌を楽しむことができる人は稀でしょう。同じ世代の音楽リスナーであってもジャニーズのファンと初音ミク音源を聴く人とでは、おそらくかなり違った音楽ファン像であるはずです。

 こうしたクラスタ化現象は確かに各分野で起こっている。ですのでより正確には、現代は「クラスタへの細分化と、そのクラスタの中での画一化が同時に起こっている」「ただその細分化は思っていたより大雑把で、全部で6つくらいのクラスタに分化している」といえるのではないかと思っています。

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