出版と同じように市況の変化を迎えている音楽分野では、近田春夫さんが、CDがとてつもなく売れていた90年代にすでにコンテンツが無料になる未来を予見し、職業としてのクリエーター業が成立しづらくなる状況を予測していました(「考えるヒット」文藝春秋刊、巻末対談)。
現状、まさにそのようになってきている。しかし近田さんは、厳しくなってもそれも悪いことだけはないのかもともおっしゃっていました。
そうなると「本当に好きでやっているような人が残る」と。
確かに、クラブで流れるような音楽は、「産業」と呼べるほどの規模ではないですが、ユニークなクリエーターがいます。その音楽はフロアのDJやレコードショップの口コミで支持され、TwitterやFacebookを通じ国を超えて広がっていく。音楽家がmyspaceにアップしている音源が参照され、現代ではロンドンのクラブで注目を集めた音楽は、ほぼ同時に東京でも広まるといいます。
ただその市場規模はアナログ版3000枚といった世界。レーベルを立ち上げたといっても、実は専業の音楽家は少なかったりします。
しかしこの分野から、Hyde Out Productionsというレーベルをつくり、海外でも評価されたnujabes氏のような音楽家も出ました。nujabesさんは惜しいことに2010年に事故で亡くなりましたが、渡辺信一郎監督の「サムライチャンプルー」に楽曲を提供したことでも知られています。
この分野ではプロとアマチュアの境界が曖昧。そしてクリエーターとオーディエンスの境界も曖昧で、みんなが渾然一体となって活気あるコミュニティーをつくっている。なんだか、同人誌の世界と似ていますね。
かつて、日本全国に文芸同人誌のコミュニティーが存在し、中央の商業文芸誌も「今月の同人作品」といった形で同人作品を取り上げる流れがあった。同人誌が才能のプールとなり、そこから文学賞を獲得する作品や、ベストセラーとなる作品も現れるというサイクルがありました。
なんといっても紙と比べて冒険しやすいはずの電子書籍の分野もまた、いろんな作家や企画を取り上げる才能の発信源となってほしいものです。
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