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「自炊代行業者も土俵に上がって」 蔵書電子化のルール作りは可能か、著者や出版社の代表が議論(2/2 ページ)

» 2013年04月22日 09時37分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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出版社が積極的になれるかは「条件次第」

画像 金原さん

 著作者や出版社には、自炊代行事業者への不信感は根強いようだ。三田さんは、文芸家協会の理事会でMyブック推進協議会を紹介した際、「ある著作者からずいぶんいじめられた」と苦笑し、スキャン代行業者に、書き込みをした本のスキャンを頼んだ人が、書き込みなしのPDFファイルを受け取ったという例を紹介。「預けた本が裁断されず、業者の手元に残っていることになる。業者は本を本当に捨てているのか? なかなか信じられず、作家も感情的になる。今行われている自炊代行事業者への裁判は、著作者がリスクを負いながら行っている」

 出版協会副理事長の金原さんは、出版社の立場から議論に参加。自炊代行業者が書籍を電子化し、元の書籍を裁断するのであれば「出版社には実害はない」と認めつつ、「電子データは複製時に劣化せず、瞬時に複製可能。複製がさらに複製を呼ぶ」ことを懸念。複製に許諾を求める仕組みを作ったとしても、「日本国民に著作権に関するコンプライアンスがあるだろうか、日本人のこういう問題に対する意識は非常に低いと思う」と心配する。

 新たな仕組み作りに出版界が積極的になれるかどうかは、「条件次第」だと金原さんは言う。「利用料がいくらになるのか。複製物を所有する方が、再利用の条件を守ってくれるのか。利用者のコンプライアンスが守れるのか。代行業者の意識もある」

 さらに、出版社としては、個人の蔵書電子化だけでなく、企業内での著作物のPDF化を含めた、包括的な電子化ルール作りを行いたいという。「企業からは、業務資料のPDF化の許諾を早く出してほしいという要請を受けている。個人の蔵書の電子化だけでなく、全体の整合性を保って電子化ルールを作り上げないといけない。自炊代行だけ先行させると、ほかがうまくいかなくなるのでは」(金原さん)

代行業者もテーブルについてほしい

画像 瀬尾さん

 パネリストは著作者、出版関係者が中心で、自炊代行業者は含まれていなかった。瀬尾さんは、「自炊代行事業者は業界団体などを作り、『今まで騒ぎになっていたけど失礼しました』と土俵に上がってくるタイミングでは」と呼びかける。

 客席から質問に立ったインターネットユーザー協会(MIAU)の香月啓佑さんは、「今回の議論に、自炊代行業者の協力は大切だ。代行事業者は、出版社ができないことをやってくれたイノベーター。代行事業者を悪者にする態度では、協力してもらえないのでは」と意見。

 今は「お互いになんとなく懸念や不信感があり、テーブルの上の食事に誰も手を出せない状態」(瀬尾さん)だが、「テーブルについてもらわないと話ができない。相手を信じず、懸念を基に議論していると一生進まない。せめて全員がテーブルについて何かを始めるべき」(瀬尾さん)と呼びかけた。

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