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偉大であり続けるのは難しい──“ジョブズ後”のAppleは「光らなくなった」か 「沈みゆく帝国」著者語る(2/5 ページ)

» 2014年07月24日 12時10分 公開
[岡田有花,ITmedia]

Appleは「光らなくなった」

――ジョブズがいたころのAppleのイメージは?

 スティーブはカリスマ性のある経営者で、イノベーションを次々に起こしてきました。「夢のある企業」というイメージを作っており、世の中を変える企業というイメージもありました。企業として大きくなる中で、スタートアップカルチャーもキープしていました。

――ジョブズと、後を継いだクックはずいぶん違うパーソナリティですよね。

 はい。ティムはオペレーションズのトップだったので数字の分析に強く、ロジカルなマインドで冷静な判断をする人だと聞いています。怒るときも静かに、何も言わずに怒る。会議などでは数字に関する質問を1つ1つしていき、最後に弱点を明らかにするような。会議では冷静沈着ですが、周りの緊張感はすごい。逆に、スティーブは感情的だったので、その隣でやっていく人は冷静な人が長く残っている気がします。

――Appleは、リーダーが変わってどう変わったと思いますか?

 かつてのように光らなくなったかなと。前はキラキラ光ってすごく人を魅了し、世の中を変えていきそうなイメージがあり、実際に変えてきました。最近は普通の優良企業になりつつあるのかなと思いますね。

 スティーブがいたころのAppleは彼中心に動いていました。スティーブの周りはいつも嵐のようで本当にめちゃくちゃだったと聞くし、周りは疲れる。でもそれによって何かが生まれてきました。ティムになって組織としては整理され、社員もよりハッピーになっていると思いますが、そういう環境でイノベーションが生まれるのかは難しいところかなと。

 今はチームプレイが重視されていますが、チームプレイがあまり強調されると違った意見が言えなくなる環境を作る可能性がある。iOS責任者のスコット・フォーストール氏が辞めさせられましたが、きっかけは戦略に関する意見の食い違いでした。そういうことが起こった後に、前と同じようにみんなで議論や反論できるだろうか? というのは元幹部らと話しましたね。

クックにはビジョンがない

画像 岩谷氏と小野氏

 「クックはオペレーションの人なのでビジョンはない」と周囲の人は全員言います。一方でスティーブは「編集長だった」と。スティーブはビジョンに沿ってリーダーシップを取り、何をどれだけやるか、フォーカスを決める役割でした。今は、編集長の役割を担う人が浮かび上がって来ません。

 Appleは“スティーブの会社”でした。Appleに投資をしたりビジネスするなら、スティーブのビジョンを見込んで株を買ったりビジネスをする。ある幹部と話していて、「ビジョンがないのが問題ではない。ビジョンがありすぎるのが問題」と言われました。社員がみんなバラバラの方向を向いている。スティーブがいたころは1つだったのに。

 スティーブの武器の中で大きかったのは彼の説得力です。何もないときに何かが出てくることを人に信じさせる宗教的な力、「現実歪曲空間」が武器でした。イノベーション自体も大事ですが、それをイノベーションと思わせる説得力も必要。それも今はないと思います。残された人はたちは、スティーブが言っていたのと同じようなことを言っていますが、なぜか説得力がない。スティーブとまったく同じことをクックが言っても、説得力がありません。それが大きな変化かなと。

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