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偉大であり続けるのは難しい──“ジョブズ後”のAppleは「光らなくなった」か 「沈みゆく帝国」著者語る(3/5 ページ)

» 2014年07月24日 12時10分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 ただ、Appleが没落するなどとは思っていません。これだけ大きな会社ですし、売り上げや利益もしばらくは出続けると思います。

戦っているのは“大企業病”

 Appleの場合は、リーダーシップが変わったことによる変化もありますが、大企業になってしまったことの課題も大きい。ジョブズがいてもきっと、立ち向かっていたであろう課題がすごくあって、彼がいなくなることでその課題がさらに大きくなってしまった。

――岩谷さんはソニーなど日本のメーカーも取材経験ありますが、偉大な創業者を失った後の経営について、日本の企業と比較してどう思いますか?

 取材を通じて感じたのは、Appleが直面しているのはAppleならではの課題ではなく、創業者を失った大企業はいろんなプレッシャーがかかるんだなと。以前ソニーを担当していた頃に厳しい記事も書きましたが、それもソニーだからではなく、成功してしまった企業が成功し続ける難しさというのがすごくあったんだろうと。

 どんな企業でも、大企業になるとイノベーションは起こしにくくなります。Appleもそう。昔はすごいフラットな組織で、平社員でも意見が採り入れられるカルチャーだったと思いますが、人数が増えるとどうしても官僚化してしまうとか、社長との距離が遠くなる。大企業になると自然とかかるプレッシャーや変化がすごくあるなと。

Appleは「Microsoftみたいな企業」に?

――Appleは5月、米音楽企業のBeatsを30億ドルで買収しました。

 スティーブはしなかった買い物だと思います。いい買い物かどうかは別にして、Beatsの買収をみて初めて、Appleは変わりつつある、変わろうとしているという印象を受けました。スティーブの時は多分、M&A担当者はおらず、スティーブが直感で決めていた。でも今のAppleにはM&A担当者がいて、数字的にはメイクセンスすると思います。

――IBMとの提携はどう見ていますか?

 サプライズはないですよね。クックはIBM出身ですから。スティーブはBtoCしか興味がなかったが、コンシューマー市場は伸びるところまで伸びた感じがあり、次はビジネス市場をみるのはアリかなと。スティーブならしなかっただろうが、スティーブのAppleはもうないと思えば、前のAppleとは違う形で。Microsoftみたいな企業に落ち着くのかな。

 スティーブの頃のAppleは魅力的な企業でしたが、経営の実態はめちゃくちゃだった。ティムになって企業らしく整備されていっているとは思います。面白くなくなってはきましたが、ティムはスティーブにはなれないので、吹っ切れたようにクックらしい経営になってきたという意味で、すごく評価しています。

 クックはビジネスに対して冷静に判断し、戦略を立てられます。Appleのビジネスを見て、どこを伸ばしていけるのかということなど、冷静に分析して決めている印象を受ける。BtoCをやり尽くしたからBtoBをやろうとか。ビジネスとしてどこを伸ばせるのか、どこが限界なのかを、こだわりなく計算・分析しているような。

 ジョブズ後のアップルはどういう形なのか、ティムの考えを聞きたいと、本を書き終わる頃には思っていました。最近、ようやく彼らしい決断がみえはじめて、どれもスティーブが絶対やらなかったこと。Appleが違う形に変わるんだろうと思う。それでいいんじゃないか。スティーブに近づこうとしてももういないし、彼がいても課題はたくさんあった。彼のレガシーを美化しても仕方ないのかなと。

――Appleは偉大な企業でいられると思いますか?

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