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クリエイターの夢を形に “商売抜き”でアニメの未来を育てる「日本アニメ(ーター)見本市」の狙いと成果(2/2 ページ)

» 2015年03月18日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]
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pixivとTumblrが“すごいこと”に 世界が注目

 公開直後から国内だけでなく海外からの注目も高く、日によっては日本より北米からのアクセスが多い日もあったという。吉崎さん自身にはしばらく実感はなく、無事に公開された瞬間に最初に頭に浮かんだことは「とにかく、寝たい」だったと笑う。

 「作品が公開! となるともっとドキドキすると思ってましたが、ランナーズハイ状態で……(笑)。完成した喜びと作品の事で頭がいっぱいで、人にどう見られるかまでは頭が回らなかった」(吉崎さん)

 一段落し落ち着いてからは「尖り過ぎてたかも、これは叩かれるんじゃ、と今さら冷静になった」。ネットでの反響も見ないようにしていたが、事態を実感したのは周囲からの「pixivとTumblrがすごいことになってるぞ」という報告だったという。pixivの成人向けイラストのランキングに「メメ」が並び、シーンを切り出したgifアニメがTumblrでリブログされ、YouTubeには海外からリアクションビデオ(初見の映像を見た時のリアクションを収めたもの)が投稿された。

photo 吉崎響さん

 「自分の作品が1人歩きしている…!? という驚きがまず来ました。音楽をTeddyLoidさんとdaokoさんにお願いするなど、日本発として海外を意識して制作していたものの、自分の内側から出てきたものが本当に国境を越えて多くの人に届いたのは正直にうれしかった」(吉崎さん)

 作業場で机を並べてきた前田監督は「『本当にいいの?』『デビュー作これで大丈夫なの?』という声が毎日のように聞こえてきて、あそこでは何が起こっているんだと思ってました」と振り返る。完成した作品は「いい意味で思ったものと違ったし、『これが響くんの頭の中か』と(笑)。海外にも広がっていったのも、作品そのものの力。商業ベースではできない魅力的な作品が生まれたのは、この企画の目指していたゴールの1つ」と期待通りの反響を喜ぶ。

19世紀の戯曲をアニメ化「Kanón」 映画やTVではできない題材を

 前田監督と吉崎さんは、セカンドシーズンの1作目「Kanón」で監督と演出としてタッグを組む。「ロボット」で知られるチェコの作家カレル・チャペックの戯曲「ADAM STVOŘITEL」を原作に、クリエイターが自分の産んだものに翻弄されていく姿を描く。

photo
photo (C)nihon animator mihonichi LLP.
photo 昨年夏時点での179カット分のコンテ。第1稿はこの2.5倍以上

 前田監督は「アダムとエヴァが出てくるのでスタジオカラーにぴったりだと思って」と笑いながら、「いつかやりたかった作家、作品の1つだったが、映画やテレビでは難しい題材。制作に自由が与えられていたからこそ選べた」と話す。昨年4月に制作に取り組み始め、「とりあえず原作をすべて描ききった」7月時点の絵コンテ第1稿は493カットにも達した。最終的には66カット、8分強の作品に仕上げている。

 演出の吉崎さんには「僕が作るから、君が壊して」と指示した。自由な制作現場で、新しい感性を取り入れつつも、最近のアニメの美しさや丁寧さとは異なる、昔のアニメーションのような“勢い”を出すために“壊す”作業が不可欠だったという。

 「デジタルツールに明るい響くんから出てくる表現は、自分と違って面白かった。今アニメ制作はいい意味でも悪い意味でもシステマティックになっていて、制作に制限がある中で冒険するのはやっぱり大変。こんなチャンスだからできるだけ冒険してやろうじゃないか、という気持ちで走っていた」(前田監督)

photo 冒頭のカット。監督がマジックで手描きした原画をあえてそのまま使ったシーンも
photo エゴヴァのシーンは前田監督のお気に入り。山寺宏一さんが女性の声を演じているのも見どころだ

“商売抜き”の先に

 セカンドシーズンでは、安野モヨコさんの漫画を原作とした「オチビサン」「鼻下長紳士回顧録」、トリガーの今石洋之さんによる「SEX and VIOLENCE with MACHSPEED」など、12作品の公開が決定している「日本アニメ(ーター)見本市」。引き続き“商売抜き”の企画として進めていくが、その先には――。

 「ここまで自由に作品を作らせてもらえる機会はとても貴重な経験で、改めて自分自身や、アニメーションというものを見つめ直すいい機会になった。今後も、もっと作品を作っていきたい。ありがとうございました!」(吉崎さん)

 「とにかくものすごくラッキーな機会なので、この場で表現できるクリエイターとして一生懸命やりきりたい。長年業界にいて、自分自身何度もアイデアを出しては潰してきたし、夢を形にする機会は多くなかった。制約がないと簡単に言うけれど、アニメ制作の既存の枠組みから考えたらありえないこと。失敗したら収入はゼロ、なんてこともなく生存が脅かされないのも大きい。どう考えても単体でビジネスにはならないだろうが、何かにつながっていけば――いや、いってほしい!」(前田監督)

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