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「歌舞伎すげえ」がネットの向こうに届いた手応え 「超歌舞伎」舞台の上から役者が見た景色(2/5 ページ)

» 2016年05月28日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]

 特に、初音ミクさんとの間合いの取り方にはかなり苦労しました。人間同士の演技であれば、相手に合わせてニュアンスを調整していくわけですが、今回は「きっかり何秒後に声が出る」と決まっています。普段は、言葉尻で相手をアシストするような、次に続けやすいような渡し方を考えているわけですが、今回は初音ミクさんにわれわれが合わせていかなければならない。自然な会話に聞こえるようなタイミングがなかなかつかめなくて大変でした。

photo 動きと音声両方を合わせていく

 客席から観ると映像と“共演”しているわけですが、舞台の上では一人芝居。どうも照れくさくて、どうしたらいいか迷っていたのですが、中村獅童さんに「思いっきり演じないとミクさんと対話しているように見えない」と指導を受けて気付きました。相手との掛け合いで盛り上げていけない分、自分だけで気持ちを盛り上げて、感情の流れを作らないといけないんです。普段よりオーバーに表現する練習を重点的にしていきました。

――特に印象的なシーンはありますか。

 やはり第4場の“公開プロポーズ”でしょうか(笑)。中でも、美玖姫と青龍が「さぁ!」「さぁ!」「返事は何と」と掛け合う箇所ですね。相手を追い詰めていくこの問答は歌舞伎の定番のせりふですが、ミクさんのお声とぴったり合うタイミングを計るのが本当に大変でした。

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 当初はこの一連の流れは映像での演出になる予定だったんです。しかし「映像ショーの中に歌舞伎がある」のではなく、「歌舞伎の中で映像を効果的に使う」という演出意図を考えると、ここは実際の演技にした方がいいだろうと途中で変更になりました。苦労しましたが、客席の反応も大きかったのでチャレンジしてよかったです。

 映像やデジタルとの融合は「超歌舞伎」の魅力の1つですが、あくまで僕らが追求していたのは「歌舞伎であること」。多くの部分で古典の演技や演出をオマージュしています。ダイナミックな立ち回り(斬り合いや格闘の場面の様式的な動き)やミクさんと獅童さんによる舞踊、終盤のはしごを使ったパフォーマンスなどは歌舞伎をご覧になっていらっしゃる方には“元ネタ”が分かる部分ですね。

――怒涛の稽古を終え、いざ幕張メッセへ。公演自体も2日間で5回とタイトなスケジュールで不安も大きかったのではないでしょうか。

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 そうですね、ずっと不安でした。リハーサルでも細かい演出の切り替えが合わなかったり、最終版の映像が直前まで来なかったり。今まで立ったことのない勝手を知らない会場で、どんなお客様が見えるかも分かりません。そもそも自分たちがやっていることは正しいのか、これは歌舞伎なのか……考え始めるときりがありませんでした。

 あと、今だから笑って言えますが、ミクさんのファンの方にどう思われるか結構本気で心配でした。ミクさんをいじめて嫌がらせする役なので、あいつ何なんだ! とネットで叩かれるんじゃ、とびくびくしてました(笑)。全くそんなことはなくて、皆さん温かい言葉をかけてくださったのですが!

――超会議1日目の正午、ついに1回目の幕が上がります。

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