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コンピュータで音楽を作る時代はこうして始まった立ちどまるよふりむくよ(2/2 ページ)

» 2016年06月24日 14時51分 公開
[松尾公也ITmedia]
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 CMU-800については、藤本健さんのDTMステーション「日本初の本格的DTM機材、AMDEK CMU-800」で詳しく解説されているのでぜひお読みいただきたい。この記事に掲載されているパンフレットによれば、ぼくが使ったMZ-80K2Eに入れられる音符の数は1万3500だったらしい。メモリを32KBから48KBに拡張してあったので、CMU-800を使えるコンピュータとしてはメインメモリ64KBのMZ-80B(MZ-80K/Cシリーズの上位機種)に次ぐ大容量データを入れることができたのだ。これも、CMU-800の専用プログラム以外はすべてデータに使える「クリーンコンピュータ」だからこそ。

 ちなみに8チャンネルが使えるMC-8が記録可能なのは5300音。4チャンネルのMC-4はType A(16KB)とType B(48KB)の2バージョンがあり、それぞれ3750音、1万1250音だ。価格はそれぞれ120万円、33万円、43万円。それに対して8チャンネル制御できるCMU-800円は6万5000円。MZ-80K2Eの14万8000円と、MZ用インタフェースの9500円、そして48KBへのメモリ増設(たぶん1万円しなかったくらい)を足してもまだまだ安い。

 MZ-80K/C用のインタフェースを購入すると、ソフトウェアが同梱される。現在、我が家にはそのカセットだけが残っている。

photo MZ-80K2Eで動く、CMU-800のソフトウェア

 CMU-800で使える音源はメロディー×1、コード×4、ベース×1、ドラム×7。外部制御の場合には8チャンネル分のシンセサイザーを扱える。これもMC-4の2倍だ(正確にはポルタメントなどをコントロールするためのチャンネルが使えなかったり、入力にキーボードが利用できなかったりと、デメリットもある)。

 入力には、CV、ST、GTの3つのパラメータを数値で入れていく。ひたすら数値を入れる。MC-8/4はテンキーで入力していくので、ほかのキーボードは不要じゃないかとも思えるが、全体を見渡せるというのはでかい。ドラムパターンの入力は、今も同じようなものだ。

photo 音符入力はすべて数値、それがステップ入力
photo ドラムの入力はいまもさほど変わらないか

 これからどんな音が出るのか。

 ピアノとベース、ドラム、あとはサックスソロの部分を、MS-02というコンバーターを通してKORG MS-20につなげ(コルグとローランドとは方式が違う)、それにボーカルをかぶせた音源が、カセットテープに残っていた。スティーブ・ジョブズがMacintoshをデビューさせた1984頃に作成したものだ。カセットテープレコーダーを倍速で4トラック録音するMTR(マルチトラックレコーダー)ティアックのTASCAM PORTA ONEで記録。

 内蔵音源の音はこんな感じだ。

 そんなCMU-800だが、いまだに使っている古参ユーザーがいる。8ビットコンピュータで入力しているというわけではなくて、なんとCMU-800をMIDI化しているのだ。MIDI化するためのキットがbeatnic.jp◇から入手可能で、それを実際にやってみた人が身近にいた。ITmediaにも深い関わりを持つ樋口理さんだ

 いまはアナログシンセもMIDIで動くようになっているし、MIDIと、アナログシンセで使われているCV/Gateのコンバーターも出回っている。コルグからはSQ-1という、SQ-10を現代風にアレンジしたアナログシーケンサーも発売され、ぼくも買った。自分のMZ-80K2EとCMU-800は義弟に譲ったままなので、いつか取り戻したいなと思っているが、廃棄されているかもなあ。

愛の残り火

 で、冒頭の写真に戻る。この写真でぼくがシーケンスをスタートしようとしていた曲はヒューマン・リーグの「愛の残り火」(Don't You Want Me)だ。「お前がウェイトレスだったのを見出して育てた俺を見捨てるのか」「あなたのことはまだ愛してるけど次のステップに進みたいの」といった未練タラタラな歌詞のテクノポップ。男性パートはぼくが、女性パートは妻が歌った。演奏はシーケンサー任せなので完全なカラオケ。あとで聞くと、観客は「何をやってるんだこの人たちは」という置いてけぼり状態だったらしい。

 残っていた演奏データをあとでMTRに録音したものが、やはりカセットテープに残っていた。本番では歌詞を覚えてなくて1番、2番と同じ歌詞を歌った記憶が。うっ頭が! その記憶を塗り替えるために、ライブを録音したテープは非公開のまま、2年前、ボーカルを入れ直したバージョンを公開した。妻のパートは、UTAU-Synthによる歌声合成で。

 今回、1982年の演奏(操作)写真が見つかったので、背景映像を入れ替え、音も微妙に修正して再投稿したというわけ。思い出は美しすぎても困ることはない。

 この34年で技術は進み、当時は珍しかった、コンピュータをフルに使って音楽を作るという行為も珍しいものではなくなった。その6年後にはDTM(Desktop Music)という言葉が生まれ、90年代からはソフトウェア音源で済ませ、ボーカルや生楽器もデータをコンピュータ上で自在にエディットする、ProToolsに代表されるDAW(Digital Audio Workstation)が主流となる。そしてVOCALOID、UTAU。ボーカルも元歌は不要となり、本人がいなくなってもコンピュータ上だけで歌うことが可能。そんな時代がやってきた。

 明日は妻の命日なので34年前にライブを見ていた友人たちがうちに来る。この映像を見せたら、懐かしがってくれるだろうか? 妻の100曲目の「新曲」も聴いてもらうつもりだ。

 コンピュータで音楽を作るというのはこういうことなのだな。

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