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「イノベーティブでクールじゃないと、がっかりされると思っていた」――元Apple社員が開発、IoTサービス「まごチャンネル」が生まれるまでクラウドファンディング「成立」のその後(2/3 ページ)

» 2017年03月10日 09時00分 公開
[矢内加奈子ITmedia]

 その2年後、「はっきり言って、自分のことなんて周りは誰も全く気にしていないという、ごく当たり前のことに気づいた」と梶原さんは振り返る。「本当にやりたいことは何か」――ふと思い出した光景は、かつて“おじいちゃん子”だった自分だった。

祖父母世代にとっての「スマホ的なもの」を探して

 兵庫県淡路島出身の梶原さん。「少年時代は3世帯で暮らしていて、おじいちゃんやおばあちゃんが大好きだった」。高校卒業と同時に上京し、今では9歳になる子どもがいるが、淡路島の実家にはなかなか帰れない。もっと両親に子どもの成長を見せてあげたい――そんな思いをかなえるために、さまざまなWebサービスやデジタルフォトフレームなどを試してみたものの、自分がイメージしたものとはずいぶん違っていたという。

 Webサービスの多くはPCやスマホ向けに設計されているが、それらに慣れていない老年層が使いこなすことは難しい。もっと手軽に身近に使ってもらえるような、両親や祖父母世代にとっての“スマホ的なもの”は何か。「たどり着いた答えはテレビだった」と梶原さんは話す。

 テレビなら、高齢世帯でも家庭に1台以上ある場合がほとんど。それを活用しようと、まずPCとテレビをつないで写真や動画を見せるデモンストレーションを作った。これがまごチャンネルの原型だ。同年代の友人に協力を仰ぎ、東京・大阪の十数世帯の家族で実際にニーズを確かめていった。

photo テレビにつなげば簡単に使い始められるという
photo 利用イメージ

 すると、最初は半信半疑だった祖父母世代も、孫の映像や写真がテレビに映し出された瞬間、思わず歓声を上げたという。「自分の両親以外にも確実にニーズがある」。そう感じた梶原さんは、まごチャンネルの本格的な開発に着手した。

クラウドファンディングで目指したのは――「熱狂的なファンづくり」

 14年冬にプロトタイプを完成させ、そのころから本格的なメンバー探しを開始。のちにチカクの共同創業者となる2人がチームに加わり、まごチャンネルの開発は一気に動き出した。

 製品として発表できそうな見通しが立ったのは、15年春から夏にかけてのこと。製品化を前にまず行ったのが、クラウドファンディングを用いた資金調達だ。日本人をターゲットにする製品のため、クラウドファンディングプラットフォームは海外サービスではなく国内の「Makuake」を選んだという。

 梶原さんがクラウドファンディングの活用を決めた理由は大きく2つ。1つ目は、クラウドファンディングの実施で、ニュースとして取り上げられる可能性が増え、プロモーション効果を見込めると思ったこと。そして2つ目は「ファンづくり」だ。製品リリースに向け、初期に熱狂的な利用者(ファン)を作りたかったという。

 まごチャンネルのようなIoT(Internet of Things)製品の場合、通常のモノと違ってソフトウェアも関わるため、サービス初期に予期せぬトラブルが起こりやすい。クラウドファンディングで獲得した熱心なユーザーから、本格販売を前に製品のヒアリングをしておきたかったのだ。

 資金調達プロジェクトの開始前には、1つのプロジェクトにつき1人つく「キュレーター」と呼ばれるサポート担当者と、目標金額の達成に向けた戦略を入念に練った。初日でどれだけの支援が集まっているのが理想か、周りの人たち何人に声をかければいいか。キュレーターの助けを借りながら目標設定とアクションの戦略を練っていった。

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