ITmedia NEWS > STUDIO >

“メイドインジャパン”は本当に高品質か? 製造国の表記に隠された理由とは“中の人”が明かすパソコン裏話(2/2 ページ)

» 2017年05月15日 08時00分 公開
前のページへ 1|2       

メイドインジャパンはマーケティング?

 実際のところ、多くの企業で共通だと考えられますが、海外で組み立てられた製品も、日本で組み立てが行われた製品も、部品の品質、製造・検査プロセスには違いはありません。しかし、一般的に「日本製=高品質」と認知されているため、いわばこれも「マーケティング」の手段の1つとして広く利用されています。

 私の所属する企業では、デスクトップPCやワークステーション製品に加えて、2011年からノートブックPCの一部を日本で製造しています。私は幸運にもそのノートブックPCの日本生産準備プロジェクトに関わることができました。

 皆さまお気付きの通りですが、日本で工場を維持することは製品のコスト高につながる可能性があります。もちろん「高くても欲しい」と思える製品を提供することは企業が目指すべき理想であると思いますが、現実は厳しく、いざ購入をするとなれば安価であることは購入における重要な要素であります。

 すなわち、「マーケティング」が目的というだけでは成り立たないのです。

photo

 完成品を輸入するのではなく「製造」する場合には、部品レベルで調達の計画を立てたり、それらの部品を消費する期間を短縮するために精密に管理していく必要があります。

 カスタマイズできる組み合わせは無数にある中で、部品が余らず、不足せずで管理していくことは非常に骨の折れる作業です。同時に、会計上「棚卸資産」であるこれら部品がなるべく短い期間で消費されるようにすることが、健全なキャッシュフローの実現、ひいては事業の継続という観点で重要になってきます。

 さらに製造ラインも、人件費や土地代の安価な海外の製造拠点と比較して競争力がある状況にしなくてはなりません。

 製造ラインの導線や作業プロセスを最適化をすることで、最小限の工数かつ短時間で正確な組み立てを行えるようにし、海外の安価な拠点で製造する場合と同等のコスト競争力を実現しています。

 外資系企業に所属しながら日本に工場があるということは、単なる「マーケティング」以上の豊かな経験をもたらすことを実感しています。

日本で作っているのに中国製とは?

 今となっては昔話ですが、1つ面白い事例があったので紹介します。当時、東京都昭島市にある工場で生産しているノートPCであるにもかかわらず、「Product of China」──中国製表記だったという事例です。

photo

 その製品は薄型・軽量の製品でした。部品の数も非常に少なく、国内での組み立ては簡易なもの。そこで当時の解釈では、主要な部品の組み立ては現地で完了していると考えたため、「実質的な変更」が日本国内では行われていない(=中国製)という判定をしました。

 加えて、顧客が海外に製品を輸出される際、税関で申告書に記載する「製造国」を取り違わないように「中国製であるという」注意文を掲載し、できるだけ消極的に日本で組み立て・製造していることを伝えました。

 もちろん、顧客の選んだ構成で注文を受けてから製造し、短い期間で出荷することができますので、日本国内に工場があり生産できることのメリットは大きいのですが、日本で生産しているなら、大々的にメイドインジャパンを打ち出したほうが「高品質」のイメージをも得ることができます。

photo ノートPCの組み立て風景。必要な部品を素早く正確に取り付けていく

 悩んだ末に、当時の日本生産プロジェクトの現場担当者たちが一列に並んだ写真を1枚だけ掲載しました。これにより、大きく日本製を打ち出すというよりも、「外資系=冷たい」という印象から「顔」の見えるあたたかい会社という印象を作ろうとマーケティングしたのを覚えています。

 企業に属する立場として、自社の製品をより広くの顧客に認知頂き、検討する機会を持っていただくためにはマーケティングは欠かせません。しかしながら、お客さまにおいても、それがどのようにご自身にとって有効に働くのか冷静に見極めて頂くことで、結果としてメーカーとユーザーの関係、そして計画と結果が一致するすてきな購入体験が作れるものと考えています。

photo

著者:白木智幸(しろき・ともゆき)

日本HP PC&タブレットエバンジェリスト。パーソナルシステムズ事業本部に所属し、法人向けタブレット製品のプロダクトマネージャ(製品企画)とビジネスプラン(販売計画)を担当。PCやタブレットの楽しさや素晴らしさを広くお伝えすることを通じ、グローバル化の進む現代でよりよい働き方を実現するためのエッセンスを提供することがテーマ。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.