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開発者は「家に3年ひきこもっていた」 仮想世界で人と集まる「cluster.」正式オープン 狙いは(2/3 ページ)

» 2017年05月31日 14時03分 公開
[本宮学ITmedia]

「1年で話すユニークユーザーは10人くらい」 ひきこもりが突然起業

 加藤CEOは1988年生まれの28歳。2015年の会社設立以来、さまざまなスタートアップイベントでスピーカーとして登壇するなど“元ひきこもり”を感じさせる様子はみじんもない。だが「(ひきこもっていた)当時は、1年で会って話すユニークユーザー数はせいぜい10人くらい。わりと本格的にひきこもっていた」という。

photo 加藤直人CEO

 京都大学で宇宙物理学と量子コンピュータ理論を学び、その道に進もうと同大大学院に進学。しかし「そこでぷっつりとやる気が切れてしまった」。周囲も頭のいい人ばかりで、自分がやらなくてもその分野は何とかなるんじゃないか……研究室に行くのがつまらなくなり、下宿先から実家に戻ってひきこもり生活を始めた。

 ひきこもり生活は「結構、充実していた」。中学時代から独学していたプログラミングで受託開発の仕事をしたり、ほしいものがあればECサイトで買ったりした。自作のWebサービスを公開したこともあったが、全然ウケず、打ちのめされたりしたこともあった。

 家の外に出ない生活は「自分にはまったく苦痛ではなかった」が、それでも1つだけ、どうしても満たされない思いがあった――「水樹奈々さんのライブに行きたかったんです」(加藤CEO)。

 幼いころから大のアニメ好きで、高校時代に一度だけ行った水樹奈々さんのコンサートで「めちゃめちゃ感動した」。ひきこもり時代もBlu-ray Discなどは欠かさずチェックしていたが、ライブの感動はどうしてもよみがえらなかった。ただ、ライブに行きたい気持ち以上に、会場に行くのが面倒だった。

 「ムダな移動って面倒くさいじゃないですか。ライブ自体はとても行きたいのに、家から会場に行くまでの数十分がすごくムダに感じてしまい、行くことができなかった」

 「なんとなく困ったまま」何もしていなかったが、転機は突然おとずれた。ブログで自分のプログラミング技術などを発信していたところ、それを読んだベンチャーキャピタリストから何度も声がかかり、1年後に上京することに。何をするかも決めないまま、友人のエンジニアやデザイナーととりあえず会社だけ立ち上げた。

 いくつかWebサービスを構想し、たどり着いたのは「バーチャル空間で人と集まる」というコンセプト。4人で開発を始め、2016年2月ごろにcluster.の原型になるサービスをオープン。「だだっぴろい何もない空間に、ただスライドを投影してしゃべれるだけのもの」だったが、数百人のユーザーに使ってもらえた。

photo cluster.利用の様子

 「ああ、みんなこういうのがほしかったんだなって」。口コミで話題が広がり、現在までの1年間で開催されたイベントは数十回に。選べる部屋の種類や機能も増やしていき、アニメ制作会社のサンライズやバンダイとのコラボイベントも実現した。

photo サンライズ「ゼーガペイン」コラボイベントの様子

 「cluster.のようなものはきっと、10人がVRを体験したら10人が思いつくサービス。α版を公開してからも『これ、作りたかったんだ』という声がすごく多かった」と加藤CEOは振り返る。それでも実際に手を動かし、数百人規模のイベントが可能な仮想空間を作れたのは、彼らだけだった。

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