「よく『ビットコインは数学によって信頼が築かれているから価値がある』という話を聞くが、暗号は数学だけで成り立つものではない」(松尾さん)
暗号には、それを読むための“鍵”が必要だ。この鍵を安全に管理しているから暗号は成り立つのであり、鍵管理をきちんと行わなければ暗号を第三者に読まれる危険性が出る。
「ブロックチェーンを扱う各ノードが鍵をしっかり管理しないといけない。そう考えると管理コストは安いとはいえず、宣伝で言われるような『ブロックチェーンを導入するとコストが安くなる』という話は若干うそだともいえる」
また、暗号が抱える弱点として「時間がたつほど攻撃に弱くなる」という点を挙げる。
ハードウェアの開発によりPCの計算能力がどんどん上がっていくため、攻撃者のPCによる暗号解読時間が短くなり、いずれ破られる日が来るという。また、暗号アルゴリズムを作るのは人間であるため、人間の設計ミスをいつか攻撃者が突破するという脆弱性もあるとしている。
もっともこれは暗号技術全体の課題であって、ブロックチェーン固有の問題というわけではない。とはいえ、ブロックチェーンやビットコインで暗号が破られる可能性を放置するわけにもいかない。破られれば当然、通貨としての信用を失うからだ。
そこで松尾さんは、「『長期署名』をブロックチェーンに適用できないか」という課題に取り組んでいるという。
基本的に、暗号鍵の証明書には有効期間が設けられている。先にも触れたように、時間とともに破られる可能性が上がるからだ。そこで長期署名という技術に松尾さんは注目した。
これは、その時の最新の暗号アルゴリズムで定期的に暗号を更新することで、鍵の有効期限を半永久的に延ばしていくという技術だ。
これをうまくブロックチェーンに適用することで、極めて長期的に安全性を保つことができるのではないかと松尾さんは考えている。
「ビットコインやブロックチェーンに引き継がれているDNAをきちんと理解しないと、何を重要視して開発すればいいのかが分からない。それらを理解して、何がブロックチェーンの本当の長所でどんな技術開発を進めていくべきなのかという議論がこれからできると良いと思う」(松尾さん)
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