ITmedia NEWS > 社会とIT >

なぜアメリカのIT企業は“定時あがり”が当たり前なのか?新連載・シリコンバレー流「早く帰るIT」(2/2 ページ)

» 2017年08月21日 07時00分 公開
[近藤誠ITmedia]
前のページへ 1|2       

 「ジョブディスクリプション」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。日本語ではしばしば「職務記述書」などと訳されますが、そもそも日本にはこれに相当する概念がないとの見方もあります。

 あらゆる英語圏の求人ページには、求人対象のポジション名とともに、職務内容についての詳細(ジョブディスクリプション)が記載されています。そこに記されている仕事内容は、全て法定労働時間内で行われるべきものです。米国の組織ではその見積もりを基に、人事管理やプロジェクト管理が行われているのです。

photo

 「アメリカは就職、日本は就社」という言い回しは言い得て妙で、多くの日本企業では採用時点で被雇用者の能力、職務内容と責任、対価が言語化されておらず、「とりあえずやってみろ」の通達のもと、会社側から振られた仕事をこなす――というプロセスを繰り返します。その中で、被雇用者本人の裁量上限を超えた仕事が蓄積されることで、組織的に長時間労働を生み出す土壌が確立されてしまうとも考えられます。

 一方、米国においては、午後5時を境にした仕事時間とプライベート時間の区別、そして職務内容とその責任の対象範囲もやはり明確です。その根底にはジョブディスクリプションに基づく考え方があるとも言えるでしょう。

 そんなジョブディスクリプションの中で、シリコンバレーのIT企業で近年頻繁に見られるようになったフレーズがあります。「collaborate」「work together」「discuss」などがその一例です。個人に求められる仕事内容や職務責任を明示するのと合わせて、「他者との協働・コラボレーション」が求められつつある――その理由はなぜでしょうか。

個人成果主義から協力型成果主義へ 変わりゆく「働き方のトレンド」

 米国企業がコラボレーションを重視するようになった理由、それを「業務効率アップのため」と思う人もいるでしょう。しかし答えはそこまで単純ではありません。

 世の中の情報流通量が人々の消費可能量を超えて爆発的に増えた今、企業における1人1人の守備範囲は相対的に狭くなったとも言えます。さらに、事業構造や経営管理、情報統制などが複雑になる中、さまざまなステークホルダーとつながり、周囲の人とお互いに手助けしながら仕事を進める必要が出てきました。

 それゆえに、ジョブディスクリプションに記される個人の職務内容も、他部門や他チームとの協働で、はじめて実現できるものに変わりつつあるのです。

 つまり、コラボレーションで業務効率を改善するというよりも、もはやコラボレーションを前提とした働き方を組織レベルで構築しないと、目まぐるしく状況が変化する経営環境の中では事業運営が成り立たない。そんな空気がシリコンバレーで生まれ始めているように感じます。

 米国企業といえば成果主義のイメージが連想されますが、今では個人としての成果よりも、チームとしてどんな結果を生み出し、会社にどのような貢献をしたかといった「協力型成果主義」にシフトしつつあるのです。


 次回は、Evernote社での私自身の具体的な経験やエピソードを振り返り、他企業の動向も踏まえながら「なぜ米国のIT企業は効率的に仕事ができるのか」をご紹介していきます。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.