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少年ジャンプ編集部、騒然 「スマホと指で描いた漫画」がルーキー賞 新人漫画家あつもりそうさんの素顔ゆとり記者が聞く(3/4 ページ)

» 2017年08月22日 07時00分 公開
[村上万純ITmedia]

スマホ執筆が「相当きつかった」理由

 きっかけは浪人生時代の夏、19歳のときに訪れた。週刊少年ジャンプ主催の「矢吹健太朗 漫画賞」「うすた京介 漫画賞」「松井優征 漫画賞」を見つけ、「これだと思った」(あつもりそうさん)。

 「とにかく勉強が嫌だったので、漫画賞に応募しようと思った。母親にもそれとなく伝えたのですが、浪人生ということで堂々と漫画を描けなかったので、自室でスマホを使って描き始めた」

 一度は挫折したスマホでの執筆。紙とペンという選択肢もあったはずだが、「前に挫折してから少し間も空いていたので、何か描けるような気がして、実際にやってみたら描けるぞと(笑)」。

漫画 『あなたが恋と言うのなら』の元原稿
スマホ スマホと指で絵を描くあつもりそうさん

 応募期限までに費やせる時間は7月〜9月の約2カ月。大手出版社の漫画賞に、初めてスマホで描く漫画を投稿するという挑戦が始まった。「ペンは買うほどのものとは思わなかった」から、タッチペンの代わりに指を使った。

 「(期限通り完成しないかもしれないという)焦りなどは特になく、淡々と描いていた」――さらりとそう言うあつもりそうさんは、家でも予備校でも漫画を描いた。予備校では教室の机で堂々と漫画を描いていたそうだが、まさか周りの生徒たちも、スマホをいじる彼を見て「漫画を描いている」とは思わなかっただろう。

 淡々と描いた……というが、その過程を実際に目の前で見ると、途方もない作業だった。

 「今はもうスマホでは描いてないんですけどね」――そう言いながら、彼は無料漫画制作ソフト「メディバンペイント」(MediBang)のスマホアプリをインストールしたiPhone 6sを机に置き、キャンバスを開く。

 真っ白なキャンバスに人さし指で素早く線を入れていく。作業工程は紙やペンタブなどと同じで、コマ割→人物のアタリを付ける→下書き→ペン入れといった具合だ。

 「最初は何も考えずに描き始めたけれど、これではまとまらないなと思い、結局ネームは紙に描くようになった」。4.7インチの小さい画面では話の流れを把握しにくい。それだけでなく、実際に絵を描く際も「とにかく画面が小さいのが相当きつかった」という。

スマホ 拡大と縮小を駆使する
スマホ 下書きの様子
スマホ 拡大しながらバランスを取っていく

 『あなたが恋と言うのなら』のあるページを選び、当時のペン入れを再現するあつもりそうさん。普段私たちがスマホで行うピンチイン/ピンチアウトの操作をものすごいスピードで手早く繰り返しては、何度も線を入れていく。

 この作業、終わりはあるのだろうか。1コマにかける時間はどれほどのものなのか。

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