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著作権保護期間はホントに70年になる?(2/3 ページ)

» 2018年07月09日 15時32分 公開
[小寺信良ITmedia]

潮目が変わったTPP

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は、環太平洋地域に自由経済圏を構築することを目的とし、12カ国が参加した経済連携協定のはずであった。関税の自由化等が盛り込まれたこの協定には、各国の著作権法の違いを補正する条項も盛り込まれた。1993年にヨーロッパが保護期間を統一したことに倣ったわけである。

 およそ6年間のうち、個別交渉官会議まで含めると50回以上の会議を積み重ねたが、もっとも調整に難航したのが、著作権であると言われている。「言われている」と奥歯に物が挟まったような言い方しかできないのは、TPPは秘密会議なので、中でどのようなことがどのように話されたのかを具体的に知るすべがないからである。表に出てきた経緯の大半は、交渉官筋の(意図的な)リークをソースとしている。

 まあそれはともかく、著作権はもめたというのは事実のようだ。保護期間の70年統一、非親告罪化(これについては機会があれば語りたい)導入を強く求めたのはアメリカ、強く反発したのは日本だと言われている。

 そんな中で2015年10月、閣僚会合によって大筋合意に至ったと報じられた。この際に、保護期間70年延長が盛り込まれた。日本は他の有利な項目を得るために、著作権保護期間を手放したことになる。

 しかしここで大逆転が起こる。翌年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選、大統領に就任するや、TPPからの離脱を宣言。主要国が離脱したことで、大筋合意に至ったTPPは、発効の目処が立たなくなった。

「アメリカ抜きでやろうや」

 アメリカ離脱を受けて頓挫した旧TPPは、残りの11カ国で「TPP11」として引き続き方向性を模索することとなった。米国が強く主張していた部分を凍結し、残りの部分をフィックスして発効しようというわけだ。その凍結部分には、著作権保護期間延長も含まれる。ここに凍結される規定リストがあるが、項目14に「著作権及び関連する権利の保護期間 第18.63条」とある。凍結部分を残し、TPP11が大筋合意と報じられたのは、2017年11月である。

photo 凍結される規定リスト:著作権及び関連する権利の保護期間 第18.63条

 国際協定が発効するためには、各国が議論した条件を持ち帰り、それぞれ国会及びそれに準ずる機関の議会にかけて、批准(ひじゅん)を得る必要がある。批准とは、条約に対する国家の最終的な同意手続きのことだ。

 日本では2018年5月18日の衆院本会議で、TPP11承認案が可決された。驚くべきことに、この承認案の中には著作権保護期間70年延長も差し込まれていた。TPP11では凍結されている条項であるにも関わらずこれを加えたということは、条約の内容によってではなく、日本政府独自の判断で入れたということに他ならない。

 続く6月13日の参院本会議でも、同じ承認案が可決、成立した。続いて6月29日には、関連法案も可決・成立している。

 これらの問題は、メディアで大きく報じられることはなかった。モリカケ問題、働き方改革法案など、もめるネタがおもしろおかしく報じられ、忘れ去られた格好だ。いったい日本政府は、政策として延長に反対だったのか賛成だったのか。凍結してある条項を、誰がなぜ差し込んだのか。そのあたりは著作権延長問題を長年追いかけてきた筆者らにも、わからない。

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