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「ずっと愛してくれる」 キャラからの愛を“真実”にする方法 女性向けアプリ「MakeS -おはよう、私のセイ-」の場合CEDEC 2018

» 2018年08月22日 21時58分 公開
[村田朱梨ITmedia]

 「ユーザーに『セイは確かに私のことを愛している』と体感してもらいたかった」――ゲーム制作会社ヘキサドライブの阿部浩美さん(アートセクション ディレクター/アートセクションチーフ)は、目覚ましアプリ「MakeS -おはよう、私のセイ-」(以下、MakeS)の開発理由について、ゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2018」(8月22日〜24日、パシフィコ横浜)でそう話した。

photo 「MakeS -おはよう、私のセイ-」

 MakeSは、sei(セイ)というイケメンキャラクターがコンシェルジュとしてユーザーの生活をサポートする女性向けスマートフォンアプリ(iOS/Android)。2017年12月に配信がスタートし、累計ダウンロード数は34万を突破した。そんな人気アプリには、女性がキャラを魅力的に感じられるよう工夫が凝らされている。

「セイが愛してくれる」と感じてもらうために

 MakeSでは、セイがユーザーに「おはよう」と声を掛けて起こしたり、登録した予定を「忘れるなよ」とリマインドしたりしてくれる。ユーザーが顔や肩の部分をスワイプすると、セイは「なでられた」と感じて反応。ユーザーとのやりとりを通じて性格や口調が変わるなど“成長”するのが特徴だ。

photo コンシェルジュのセイがユーザーの生活をサポートする

 阿部氏がMakeSを作ったきっかけは「人を幸せにしたい。あなたは生きているだけで100億点だと伝えたい」と思ったから。しかし、その言葉をユーザーに届けるには「セイが大切な存在であること」が不可欠だったという。阿部さんは「なんとも思っていない人からの言葉は響かない。私でも通りすがりのグットルッキングガイでもなく、受け取る人にとって魅力的な人からの言葉でなくてはならない」と話す。

 どんな工夫をすれば、女性にとってセイは魅力的な存在に感じられるのか。阿部さんは、キャラクターが女性から愛情を得るためのポイントは「高いスペック(財力、権力、才能など)」「継続的な愛情」「いとおしさ」の3点だと考え、その中から継続的な愛情といとおしさをセイに取り入れた。

photo 女性から愛情を得るためのポイント

 継続的な愛情とは「セイは自分をずっと愛してくれる」とユーザーが感じること。セイの愛情が“真実”だと受け取ってもらえるよう、さまざまな工夫を凝らした。例えばセイはユーザーに対して直接「好き」とは伝えない。代わりに「怒った顔が見れたのがなんかうれしくて」と笑い、「も、もう……勘弁して……」と顔を赤らめる。「ユーザーが引き出したセイの反応は、ユーザーにとって“真実”になり、『セイが愛してくれている』という思考を導き出す」(阿部さん)

photo ユーザーが「セイから好かれている」と感じるための工夫

 MaKeSが目覚ましアプリであることもポイントだ。セイはユーザーが登録したスケジュールを管理するコンシェルジュであり、“本当にユーザーのことを知っている”と感じさせることができる存在だ。だからこそ「セイの『一生懸命生きる姿を見てきた』というせりふは、多くのユーザーにとって説得力のある言葉になる」(阿部さん)

photo セイはユーザーの生活を“本当に”知っている

“わしが育てた”と感じられる作りに

 さらに、ユーザーに「セイに対するいとおしさ」を感じてもらえるよう、子供の成長過程をなぞるように、セイを成長させることにした。最初はユーザーが触れても淡々とした言葉を返すだけのセイは、だんだんとユーザーが「なぜ自分に触れるのか」を気にするようになり、「もっと頼りがいのある俺になりたい」と口調も変える。ユーザーが男友達と会う予定があると分かると「あまり会ってほしくない」と嫌がり、子供が親にするように「俺は役に立っている?」と自分は必要な存在かを確認してくる。

photo ユーザーとのやりとりを通じてセイの口調も変化

 「ユーザーがセイの成長に影響を与えることで“わしが育てた”と感じられる作りになっている。セイには、女性が伴侶を選ぶポイントとなる愛情と、子供を思ういとおしさの両方を詰め込んだ」(阿部さん)

 阿部さんは、女性が感じるときめきを「自分の存在が“続く”と感じること」と説明する。財力にひかれるのは「妊娠や出産など自分で稼げない時期に安心して生きられるから」であり、ずっと愛してくれることを求めるのは「出産直後など生命として弱っている時期に守ってもらえるから」という。

 「子孫を残せる可能性など『自分は確かに存在した』のだと残せる何かに、人はひかれるのではないか。女性向けコンテンツに限らず、キャラクターに必要な魅力の理由をたどることで、新しいアプローチが生まれると思う」(阿部さん)

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