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メディアを通さなくてもいい――「メディアスキップ」の時代のお仕事(3/3 ページ)

» 2018年11月27日 11時44分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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「自然な多様的視点」の価値を認めてもらうには

 ぶっちゃけ、こうしたことは「メディアとしての基本姿勢」の問題であって、いまさら言うまでもないことでもある。

 メディアは信頼ならない、と思われている。それは、自業自得の部分もあるのだろう。

 では、ダイレクトだけでいいのか? 視点はそれだけでいいのか?

 メディアが信頼されないというのは、多様な視点についての価値を提供することへの疑問があるからだ。別に政治の話だけじゃない。製品がいいのか悪いのか、どこを支持するのか、映画が面白いのか、どこがいいのか。そんなことだって「視点」だ。

 こういう話をすると、「企業に阿らず」ということになる。まあそれはその通りなのだ。だが、それは「企業に反する」ことではない。悪い点を指摘し続けることは、結局「悪い点を指摘する」という一つの視点でしかない。

 企業やアーティスト、政府からのダイレクトな情報は「ひとつの視点」である。別に彼らが悪意をもってひとつの情報を提供している……と大上段に振りかぶる必要はない。

 企業やアーティスト、政府が言いたいことと、メディアとして言いたいことは違う。だから「間に入るとぼやける」のだが、それはあちらの見方だ。発表されたことにどういう意味があって、どういう部分がポイントなのか。それをわかりやすく伝えることこそが、メディアの仕事だ。ダイレクトに伝えたいという企業のあり方を否定してもしょうがない。それは彼らの立場になれば当然のことだ。「ちょっとだけ私の感じたことは違います」ということが伝わればいい。それこそが「多様化」なのだ。

 SNSで人々の反応はダイレクトになった。速度も上がった。だからこそ、企業や政府からのダイレクトな反応は、時代の要請なのだと思う。

 同時に、「ダイレクトと違うが、この人・このメディアの言うことは面白い」と感じてもらい、「同時に食べてもらう」ことを考えなくてはいけない。

 その上で、「メディアを通さなくても情報が伝わる」時代であることを認識し、「伝えることが特権ではない」ことも自認しないといけない。

 過去と違い、「読者の中には、自分と同じタイミングで情報を得ている」人が多数いる。一方で、継続的にチェックし、表に出ない情報も確認しているのは、まだ多くはない。

 重要なのは、我々が書くことと、企業から直接出てくる情報、そしてプロでない人々が書く情報は「並列に競争している」のであり、過去以上に、「我々は独自の地位にいるわけでないことの自認が必須である」ということだと思っている。

 要は「スキップ」されないだけの価値が必要なのだ。そのためには、SNSでの露出も必要だろうし、メディア側での見せ方も重要になる。

 メディアの記事や動画には、もはや神通力はない。その上で、あえてメディア経由の情報を読んでもらう、見てもらう価値をどうつけるのか。もっといえば、「ダイレクト以外の経路もいっしょに取り込んだ方が、人生が豊かになる」と思ってもらうにはどうしたらいいのだろうか。

 この辺の話は、大上段にかまえたメディア論が通じない部分かと思う。過去のメディアを知る人が多い「今」はいい。では、10年後・20年後はどうか?

 多様性の価値を理解してもらうための努力を、メディア側が始めないといけない。思想で戦ったり、販売競争で足を引っ張ったりしている時代でないことを、どれだけのメディア関係者が意識しているのだろうか?

 どうにも、大手であればあるほど、そうした空気感、危機感に対して鈍感であるような気がしてしょうがない。

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